各作品レビュー:マ行

マーズ(横山光輝)
この作品を一口に言うと「偉大なる失敗作」といえるだろう。
あらすじを大まかにいえば、とある孤島に現れた謎の少年が、古代宇宙人の兵器と戦うのだが、実は少年が操るロボットこそ地球を破壊する究極兵器で、敵ロボットも地球破壊のための布石の一つであった。結局は敵を全滅させたはいいが、その敵によって追い詰められた人々の迫害を受け、自らの意志で地球を破壊するという救いのない結末になってしまったという、ある意味そのような無常感が横山先生らしいといえばそうなのだが。
ところが、それをストーリーボードにしたアニメ作品が創られた。そう、『六神合体ゴッドマーズ』である。とはいえ結局引用されたのは主人公の本名と彼が操るロボットたちの名前などで、あとはほとんどオリジナル。特に双子の兄マーグとの激突は当時の腐女子だったオバサマたちを夢中にしたことは言うまでもないだろう。
あと原作も2度OVA化され(1回目はコケたけど)それは最後に地球人たちの心を信じて地球を去るという少しばかり救いがあった結末だった。
ともかくもこの作品も今はジャイアントロボに1歩譲る形となってしまったが、横山先生のSF作品を語る上で欠かせない1本となったことは言うまでもない。

マカロニほうれん荘(鴨川つばめ)
この作品は70年代後半に少年チャンピオンで連載された一大ギャグマンガである。
高校に進学した主人公そうじが、高校に巣食うきんどーとひざかたの二人のコンビに振り回されながらも立ち回っていくのが初期のストーリーで、それが後期になって二人のロックばりのコント劇が中心となっていく。それに伴って振り回されっぱなしのそうじも次第にツッコミ役のポジションを確立していったり、いつもいじられっぱなしのキャラとなる担任のくま先生やら後にそうじと双璧を成す突っ込みキャラとなる文子先生やら、ひざかたを慕う女子大生グループやら、くま先生にいつも因縁をつける不良グループもひざかたたちの舎弟になったり、途中引っ越してきた馬之助も二人のコントに加わって結局トリオと相成ったり、さらにはひざかたの裏の顔を描いたエピソードや彼の宿命のライバルとの戦いやらと物語の幅を利かせてくれるのは言うまでもなかったが、やがて作者の鴨川先生のモチベーションの低下によりストーリーも行き詰った感もあって、結局は連載終了と相成った。その後も掲載雑誌を変えながら細々と話を続けていったが、やはり長続きはせずに作品の歴史に幕を閉じる。
それでも、そのロックばりのコントは今でも通用すると思うだろうし、これもまたマンガ史を語る中で知る人ぞ知る名作といても差し支えないとも思うのだが。

まだ、生きてる・・・・・(本宮ひろ志)
07年初頭にヤングジャンプにて団塊世代をテーマに書き上げた意欲作、のつもりだった。
大まかなあらすじは、定年を迎えたダメサラリーマン岡田憲三が家族に捨てられて自殺を図ろうと思ったが結局死にきれず山奥で陰棲生活を送り、途中同じく迷い込んだ女性と生活を共にして一児をもうける。しかしもともと身体が弱かった岡田はその無理がたたったのか数年後往生してしまう。といった話なのだが、ここでも本宮氏お得意のアウトロー的な要素が見えてくる。
結局連載的には1クール(3か月ほど)しか続かなかったが、後になって結構評価が上がってきた感もあるけれど。

つまりは人間どんな環境でもどんな状況でも生きていくことができるというのがテーマといえばそうなのだが。これも意見が分かれるところ。編者としても窮しても貧せずというまあ極端なケースとして一部受け入れているけれど。とはいえ動物と一緒くだにするのもいかがなものか。
あと極端といえば機械音痴な反面携帯だけは使えるのかというのも、つくづくマンガだなということだろうが。
まだ、生きてる・・・・・2
09年ビジネスジャンプで連載された続編で主人公は憲三の息子岡田正夫。
あらすじは前作の8年後、派遣社員だった正夫が仕事を失い、派遣会社からも切られ、恋人とも別れ、挙句にやはり家族からも見捨てられる。
そんな絶望的な状況からふと父親の消息を知り、自分も父と同じ生き方をしてみようと悪戦苦闘、まあ何年かたってやっと自分と父親の夢を一応果たせ、ついでに父が面倒を見た母子、やはり社会にはなじめずに正夫が面倒をみることになったそうな。
結局前作が打ち切り同然となったこともあって、「捨てる神あればまさに拾う神あり」といった状況での続編だったのではないか。
後に『喝 風太郎!!』にて憲三・正夫を捨てた憲三の妻が、風太郎の導きで死の床から和解したことである程度の救いも入れたことも挙げたい。

しかし今の日本人に対するある意味エールだったこれら二作品だけど、本宮センセイもこれこそが一番言いたかったのだろうから。

ムジナ(竹熊健太郎・相原コージ) 
『サルでも描けるマンガ教室』にてコンビを組んだ竹熊、相原両先生が製作した、忍者アクション漫画を建前とした作品で、弱小忍者軍にて過酷な任務と内外の陰謀に翻弄されつつ、生き延びるため戦う少年忍者の活躍を描いたものだった。
主人公ムジナはどちらかというとできが悪くグループのつまはじきものだったが、両親が頭目の欲望のために命を落とし、生き抜くための力を得るために人知れず奮闘をする様に共感を得る人も決して少なくないとは思う。
その一方でストーリーの随所に、前作のサルマンにて恒例だったマンガのテクニック技法の伝授をおり交ぜている。これはサルマンにてテクニックを教える傍らで両先生を中心としたコントドラマを描いたものに近いかといったものか。
さておき後半、任務の傍ら付き合い始めた彼女が頭目の欲望に巻き込まれたのと同じく、頭目の欲望に反旗を繰り返した仲間の反乱から始まり、頭目をはじめとした忍軍を監視していた黒幕の粛清劇に、人知れぬ修行の末真の忍者に目覚めたムジナが、黒幕をはじめ総ての陰謀に立ち向かうといった展開に話が進む。
こういったムジナの物語も、現代に生きるサラリーマンの悲哀にもやはりつながるのかなとは思うけれど。

 無責任艦長タイラー(吉岡平)
今作品は90年代初頭より刊行されたSFライトノベルの一大シリーズである。
時は宇宙進出が成された未来、人類の前に立ちはだかる戦闘民族と激しい構想を繰り広げられる中、一人の飄々とした男が地球連合宇宙軍に入隊した。その男タイラーが生まれついてのお調子で軍の中枢に取り入り、当初懐疑的な軍関係者も彼の人柄に惹かれるようになる。やがて敵軍との抗争にも巻き込まれるも、そこでも強運とお調子、そしていざというときにはキリっと決める男意気でくぐり抜け、やはりそこの支配者たる少女帝とも親密な関係となり、戦争も集結に向かわんとする。その後も宇宙を巻き込む混乱が降りかかり、それも奇抜なアイデアで乗り越え宇宙をある程度の平和を手に入れるという一大サクセスストーリーが繰り広げられた。
そもそもこれらのシリーズはが昭和30年代映画界に一世を風靡した植木等氏の『無責任男シリーズ』をベースに、戦時の艦隊戦にイメージを置いたスペースオペラ風に仕立てた一大大作でもあった。
その後もシリーズは続けられ、彼タイラーの子や孫も彼には及ばないまでも上へ下への大活躍を見せ、当時銀英伝のアニメがリリースされ、それに乗ってのヒットでもあったが、90年代のノベルズ界に一時代を築いたのはいうまでもない。

ムツゴロウが征く(畑正憲 川崎のぼる)
この作品はムツゴロウさんこと畑正憲先生が動物たちとの交流を中心に放映された『ムツゴロウのゆかいな仲間たち』のヒットを受けてコロコロコミックにて連載されたものである。
物語は動物作家のムツゴロウさんが、自らの生い立ちから中国満州の開拓民との生活。帰国後成長して作家として名を上げた後で北海道に移住し自らの動物王国を築くまでの物語が描かれた。
まず前期の満州での生活は、雄大な中国大陸の自然を相手に、その厳しい環境での時には苦しい生活の中でも精一杯生き抜く様と、時には野盗に襲われながらも彼らとの交流で何とか切り抜けることができたことで、心身ともに成長したムツゴロウ少年が描かれた。
後期には作家のムツゴロウさんが家族と一緒に北海道に移住し、そこでの厳しい自然と闘いながらもそこに住まう動物たちとの触れ合いを中心に生活を続け、ついには自らの夢の動物王国を築くに至る。
その後の壮絶なる人生はひとまず語るまでもないものの、当時の子供たちもムツゴロウ少年及びムツゴロウ先生を通じて自然の豊かさと厳しさ、そして動物たちとの触れ合いからいかに自然と付き合うかを教えられたことだろう。

燃えるお兄さん(佐藤正) 
燃えるお兄さんとは先に奇面組の新沢基栄先生でアシスタントをしていた佐藤正先生が満を持して登場したギャグマンガである。
ある日山の中で棄てられた一人の子供が武道家だか仙人だかわからない爺さんに拾われ、デタラメな強さの男として帰ってきて、そのまま破天荒な生活を送るようになっていく。
主人公の憲一ことお兄さんとそれを取り巻くキャラクター。実はある程度の生活破綻者である父親の憲吉、チンピラ中学生の火堂害、誰かさんのパロディキャラでもあるロッキー羽田、そして憲一を育て上げ、そのまま国宝家に居座った玄米爺さんやらと憲一に負けす劣らずの破天荒キャラが誌面狭しとの破天荒な大活躍を繰り広げたのだ。
このお兄さんもお話が進むうちに中学編から高後編と舞台を移すも流れ的にはそうそう変わりはなく、宇宙人の侵略やら謎の科学者やそこから逃げ出した悪知恵の天才アヒルやらとこれまた結構なストーリーを展開したりもした。
しかし後半になって作者の佐藤先生もさすがにネタ切れしたのか、最後にはコント寸劇に陥ってなし崩し的に連載終了と相成った。
その後いくつかの連載を世に送ったが、結局お兄さんほどの人気を得られず、マンガ業界から身を引くことになったそうな。
しかしこのお兄さん。奇面組と並ぶハイテンションなギャグが現在でも受け入れられそうだがいかがなものか。