各作品レビュー:カ行

企業戦士YAMAZAKI(富沢順)
富沢順先生が90年代に描いた現代を舞台にした近未来風サイバーアクション仕立てのヒューマンドラマ漫画である。
どこからともなく現れる謎の派遣社員山崎宅郎。彼は業績に伸び悩む企業に派遣されてはその社の問題を的確かつ冷厳に解決し、そこにかかわる社員の悩みあるいは甘えを指摘しやはり冷厳ながら的確に導いていく。
その実体はかつて過労で命を落としたサラリーマンが、遺された家族のためにサイボーグ社員となったものであった。
さらには敵対する企業等から派遣された敵サイボーグ社員の襲撃を受けてはそれを撃退するのも当作品一番のウリでもある。
この骨子については、前半の人間ドラマに加え、かつて富沢先生の作品であった近未来アクション漫画『コマンダー0』のバトルアクション要素をパロディ仕立てながらも盛り込んだものだった。富沢先生といえば昔から『必殺仕事人』の影響を受けたギミック仕立ての展開にはやはり定評があった。その後も多少ひねった展開が読めたものだったけれど。それがかつて打ち切りと相成ったゼロを要素を受け継ぐ形となり、OVA化されたことに加えてタレントのイッセー尾形さんが主演のドラマ化までもされたことでひとかどのヒットがなされたこと、人によってはこの作品が富沢先生の最高傑作と謳われているかというもここに記しておきたい。
いずれにしてもこのヤマザキも一読に値する作品でもある。

きまぐれオレンジロード(まつもと泉)
きまぐれオレンジロードは、84年頃に描かれたジャンプにおいての本格的なラブコメ漫画の草分け的存在である。
その当時サンデーでは『うる星やつら』や『タッチ』など、同じジャンプ作品でも『ウイングマン』などと競合する形での連載と相成った。
主なあらすじは。ある夏の日に、主人公春日恭介が、一人の少女と出会ったことから始まった。その恭介と元不良少女の鮎川まどかと彼女の後輩にして恭介にひかれた檜山ひかるとの三角関係を中心に物語が描かれる。
その恭介だが、ひそかな超能力を駆使して降りかかる諸問題をひとまず解決していくが、反面優柔不断な性格で時には二人の仲をもつれさせてしまい、また周りの人々、ことに彼と同様の超能力者たる妹たちや親せきなどにも振り回されたりもするが、それでも彼なりに恋を育んでいく。
やがては一旦まどかとは別れなければならなかったが、初めに出会ったような夏の日に、二人は再会するのだった。
とにもかくにもこのオレンジロードを皮切りに、90年代の『I’s(桂正和先生)』や2010年代の『ToLOVEる(矢吹健太朗先生)』等の作品がジャンプラブコメマンガの一大ジャンルとして歴史を刻んだことは言うまでもないだろう。

ゲームセンターあらし(すがやみつる)
ゲームセンターあらしとは小学館コロコロコミック創世記からのマンガ作品で、当時としては珍しいテレビゲームを扱った、いわばゲームマンガ、ゲーマーマンガの草分け的な存在だった。
その主人公のあらしは決してかっこいい的なヒーローではなく、よくて三枚目、あるいは傷だらけのヒーローともいえる。
ますストーリー展開的に、一度負けてから猛特訓の末に再戦し勝利を収めるという流れが大半で、数多くの奇想天外な必殺技でゲーム勝負に挑むというとうのも、今でこそあんなレゲーでよくやるなあ、と思う人もおられるだろうけど、当時は結構胸躍ったのもまた事実。
あと当時の社会情勢~ゲームセンターが非行の温床となっている等~において風当たりが強くなった、その影響からか、後期になるほどに新作を扱えなくなったこともあげたい。まあ次第にパソコンやコンシューマーにも幅を広げるも、やはり社会情勢の波には逆らえなかったといったところ。そして最後期にストーリー関連で迷走の感もあり、ひとまずの連載終了の憂き目にあったとか。

しかしながらその想いは後の作品にも多大なる影響を与えたことは否めなく、この作品無くして今日のゲーム文化は存在しなかったといっても過言ではないのだが。

行雲流水(本宮ひろ志)
本宮ひろ志先生が描いた歴史ファンタジー漫画であるこの作品は、古代中国、秦の始皇帝の命により不老不死の秘術を得るためにはるばる蓬莱の国たる倭の国、後の日本に赴いた徐福は、無事その巫術を手に入れ不死の体を手に入れた。この時点で始皇帝の名は達成できたかのだが肝心なのはこの後、何と始皇帝本人も表向きでは死んだことにして不死の体を経て半ば世捨て人の如く徐福とともにそれからの世の歴史を見守る役目を自らに負ったのだ。そのうちに歴史を彩った偉人たちを仲間に引き入れ、やがて来る現在未来の世の破滅の時を回避しようと宇宙にまで乗り出すといった壮大な物語にまで発展した。これは本宮先生お得意の多少は波瀾万丈なストーリー展開ともいえるのだが。
その偉人たちは卑弥呼をはじめ聖徳太子や織田信長、坂本龍馬らとそうそうたる面々がそろっている。ちなみに曹操も作中に描かれたのだが、こちらは『天地を喰らう』のキャラとはかけ離れた感もして、これは『夢幻の如く』の信長にもいえることだろうが、ひとまずは放して読んだほうがいいかもしれないか。
ともかくもこの作品、歴史絵巻としては現在進行の『猛き黄金の国』シリーズにも通じる歴史群像と同じく歴史絵巻として読むことができ、後半に関しては現代に生きる我々としても考えさせられる事柄ともいえるだろう。  

攻殻機動隊(士郎正宗)
攻殻機動隊は『アップルシード』等の作者士郎正宗先生が描いた、近未来サイバーパンクコミックでもある。
舞台は近未来の日本。電脳世界を交えた犯罪等に立ち向かう女捜査官を中心の活躍を描いた作品である。
基本は近未来SFを中心に、サイボーグ、アンドロイドも幅を利かせ、アクションやサスペンス、時には士郎先生ならではのセクシーさも繰り広げたストーリーが展開されていた。
それらが大友克洋先生の『AKIRA』と並ぶSFコミックの双璧と呼ぶ人もおられるとか。
当作もコミックのヒットを受けて何本かの映像化が成され、原作からハードボイルドの要素を醸し出し、これもまたヒットを受けたことも記憶に新しい。
ともかくもこの攻殻も先に発表された大友克洋先生のAKIRAとともに後のSF作品にも多大なる影響を与えたことはやはり述べるまでもない。

極悪の華・ジャギ外伝(ヒロモト森一)
言わずと知れた『北斗の拳』のスピンオフ作品の一つ。今でこそ悪役の一人として数えられるジャギの幼少期から伝承者争いに敗れるまでのストーリーを描いた野心作でもある。
 ジャギといえば北斗四兄弟の三男であり、その伝承者争いに敗れて後、徒党を組んで暴虐の限りをつくすもついには末弟ケンシロウによって討伐される。というのが原作のストーリーだったが。
 本作冒頭の暴虐シーンと醜く歪んだ素顔など、ある意味彼の象徴と対照しての彼の生きざま。ことに挫折の直因となった恋人の死もあったけど、結局以前からの指摘どおり、なるべくして悪人になったといったところで、まあ見る人によってはある意味哀愁を漂わせる感もあることはあるけれど。