ガンダムSEED CRISIS 第1クール
(PHASE1~5)

PHASE1:戦乱は再び幕が上がる 
宇宙空間のデブリ帯、そこで作業を行っている一人の少年がいた。名はディノス=エルスマン。かつての革新、運命両戦争の英雄の一人と目されたディアッカ=エルスマンの息子だが、今はオーブ市民として身を置いていた。
小型のモビルワーカーで一定量のデブリを回収し、それをナノマシーンで分解、再資源化を行って地球、プラント各地に資源物資を供給する。それが彼が一時身を置いているバスカーク商会の事業の一つだったのだ。
やがて作業を行っているディノスに、輸送艦船内から帰還の指示が出る。安堵の表情とともに作業を切り上げるディノス。それを商会の社長のカズイが迎え、今日はミリアリアの誕生日だから、母子水入らずで過ごせと告げる。
こうして輸送艦は商会の中継コロニーへと帰還の途に就くのだった。

一方のプラント、ザフト軍司令部にては、
「お前たちの目は節穴か!」
作戦指揮において士官の手際の悪さを叱責する一人の将校がいた。プラント国防委員長となったイザーク=ジュールであった。ここ数日、地球各地で不穏な動きが見受けられ、連合、大西洋連邦の要請を経て平和維持活動の一環として調査を行っていたのだ。
その調査が一向に進まず、苛立ちを募らせる中、士官を下がらせてからややあってカズイが入ってきた。ディノスと一旦別れ、その足でプラントへと向かったのだ。
表面的には煙たく思いつつもイザークは技術関連の協力の要請に関してひとまずの承諾は取りつける。その後でカズイはサイを交えてとある計画についての交渉を行うとも告げるのだが。
カズイが退出して後、イザークはふと机上の写真に目をやる。
「とうとう俺一人となってしまった。今更奴らは役不足とは言わんが力を借りねばならん。せめてお前たちの一人でもいてくれれば」
と、イザークは若き日の自分たちが写された写真、自分のすぐ横のアスランに続けてもう一人の若者、ディアッカに目を移すのだった。

地球に降り立ったディノスは久しぶりの帰省で母ミリアリアと親子水入らず、というより母の元カレであったトール=ケーニヒの妹フミコを交え団らんの時を過ごす。ちなみにフミコ自身今でもミリアリアを姉と慕い、ディノスもまた“フミコおばさん”と呼んで親しんでいる。そんな中でかつての戦争のことに話題を移し、中でも両戦争の英雄のキラの話には軽く胸を躍らすのだったが、途中フミコが未だ戦乱のきざしが収まらぬことを憂いているのを察し盛り上がりも冷めようかと思いきや、やはりミリアリアがこの場を取り繕い最後まで楽しむことができた
しかしその夜、自室のベッドの上でディノスは物思いにふけるのだった。
「俺も、父さんやキラさんのように、世の中を収めることができるのかな」
同じ頃、とあるがれきの山にほんの微小な物体が落着をした。

次の日、ディノスはMSの訓練を兼ねて通称ごみ溜めと称された、大小の災害にて流されたがれき等の集積場所で必要な資材や機器等を探し求めていた。それ自体は商会の収取の仕事の延長線上ということでミリアリアの承認を得ていたが。
そういえば昨夜何かが落着したというのでその跡を調べていくうちに、なんとザフトのMS数機と鉢合わせになってしまった。宇宙デブリのひとつながらも地球に落下した物体に重要な機密がありと駆けつけた、地球に駐留した部隊だった。その物体は今ディノスのバスターの足元にあり、当然ディノスはその所有権を主張した。それに対し抗議の声を上げようとするザフトの兵たち、その中でも隊長機の傍らのにいた女性パイロットが、気遣いつつ諌める隊長をよそに白いグフタイプのMSにてディノスに勝負を挑んできた。
おそらく自分と同年代だろうと多少の意外性を覚えつつも速攻を旨とするグフの攻勢をなんとか受け流し、本来砲撃を得意とするバスターだが接近戦でグフに立ち向かう。
グフの両腕から繰り出されるヒートロットも先の戦争で実用化されたドラグーンシステムの応用で指向性が向上したものだが、ディノスもサーベル1本でそれをひとまず捌いていく。ディノスとしてもまさかザフト等軍隊とまともに事を構える気はなく、ひとまずあしらっていこうとする。しかし相手もそんなディノスの心情を読んでかいら立ちを禁じ得ない。
しかしそんな相手のいら立ちからの隙を突いて、ディノスはグフのロットをはたき落としていく。
「とりあえずこちらで調べた後で返しておくから、後はよろしく」
こうしてディノスのバスターは飛び去っていき、あっけの取られたザフトの部隊、そんな中でのグフのパイロット、ヘルメットを脱いだ一人の女性。彼女こそプラント国防委員長イザークの娘エレミアだった。
飛び去っていくバスターに「ばかぁ!」と絶叫するエレミア。こうして一つの本当の意味でのささやかな戦いが終わり、物語は大きなうねりを上げ始めんとしていた。

ささやかな戦いが終わり、またささやかな戦い、かつての英雄が一人の少年に戦いを挑まんとする。
それは、少年が新たな英雄になるための試練であるかのように。

次回 機動戦士ガンダムSEED CRISIS
古き英雄と新しい英雄
新たなる戦場、駆け抜けろ、ディノス!


PHASE2:古き英雄と新しい英雄
一人の男が夢を見ていた。その男が見た先に、光の中一人の少年が彼を呼び掛ける。しかしその少年はすでにこの世の人ではなかった。男は懐かし気に少年に近付こうとするが、少年は男に語り掛ける。
「僕たちはまだやり直せる。そのために君の力が必要だ」と。
そしてその男、サイ=アーガイルは目覚める。しかしサイは確信する。その少年キラの約束の意味を、そしてそれを果たすことがこの世界を救うことだということを。

地上ではささやかな争乱が起き、それをなぜかイザークに報された。ひとまずその報告を受け流しつつ司令室へ向かわんとする。
そこに先の戦闘の弁明をするために帰還したエレミアが待ち構えていたが、イザークは「ミリアリアの息子に出し抜かれた話は聞かんぞ」と半ばそっけなく応えエレミアのもとを離れる。それからややあって、ディノスの名を口にし、笑みを浮かべるのだった。

一方でザフトの追撃を振り切り家路についたディノスは、神妙な面持ちの母となぜかカズイ、さらには連邦下院議員のサイまでも待ち構えていた。
サイが言うには件のディスクはいずれプラントに渡される手はずとなっていて、続いてカズイもたまたまザフトがそこを調べて偶然鉢合わせたと告げる。それを聞いたディノスは悪いことをしたともらすも、気にするなとサイは返す。続いてサイがディスクの件に関連して最近のいわゆる“人類革新計画”ここにきてコーディネーター、今や革新種と呼ばれ受け入れられるようになり、安定した人類の革新を目指しての研究を再開しようということで、かつてのコロニー・メンデルの重要な情報が記載されたディスクが必要になったということだ。
それについてなぜ自分にもそれを教えたのかというディノスの問いにカズイが応える。
ディノスはコーディネーターこと革新種のディアッカとかつてのナチュラルこと未革新種のミリアリアとの間にごく自然に誕生し、しかも父親に近い能力を持っているというのでひとまずの期待を持っていたのだ。
いきなりそんなことをと言った面持ちをよんでか、ミリアリアも今は休むように言いつけ、ひとまず部屋を後にするのだった。

後日ディノスはとある場所にバスターを駆って向かっていた。かつての運命戦争の生き残りの一人でディノスの師匠にあたる女性の訓練を受けるためであった。ディノスとしても今回の訓練でモヤモヤした気を晴らそうと“訓練場”へと向かうディノス。ややあってそこにたどり着いた先には、いつもの相手、師匠のヒルダのドムではなく、白い機体、かの伝説の機体に連なる“GUNDAM”の機体だった。
「よく来たな、ディノス=エルスマン。貴様と父親の勇名を聞き、こうしてはせ参じた」
そのMS“デュエル”から発せられた声はディノスにしても知らぬものではなく、むしろその声の主こそ、プラントの国防委員長、すなわちザフトの頭たるイザーク=ジュールだったのだ。
「え、まさか、でもどうして、師匠は」
「あいにくヒルダは少し休んでもらっている。先に行ったがお前の実力を見てみたくなってな。ついで言っておくが娘のことは俺もあずかり知らぬ。ゆえにお前も存分に戦うがいい」
こうして成り行き上戦闘と相成ったデュエルとバスター。たしかにイザークのデュエルも革新・運命両戦争を戦い抜いた英雄だけはあり、その実力は侮れないものがあった。半ば本気で攻めるイザークに対し、バスターのディノスもまさか倒すわけにもいかず、ひとまずは防戦を基本に戦いを進める。一方のイザークもディノスの戦術を読んでいて、それにも対処するのだった。
一進一退の攻防が続く中、一台の車が割って入る。母ミリアリアとヒルダだったのだ。
「はい二人ともここまで、サイとカズイも来てるわよ」
「ふん、案外早いな、もう少し楽しみたかったのだがな」
と、イザークも軽く悪態をつきながらもデュエルの動きを止める。それに合わせて動きを止め、ここにささやかな戦闘は終わったのだ。
ヒルダの家にてサイとカズイ、そしてイザークの会談が取り行われることとなる。つまりは秘密会談でもあるが、その内容がディノスとエレミアが争った、件のメンデルのディスクを通じ、先に述べた革新計画の骨子を話し合おうというのだ。
今度ばかりは自分は出る幕ではないと、部屋を後にせんとしたが、先日述べた事情を踏まえ、ディノスもまたキラとは違う意味で真の革新種であると述べ、このまま居合わせるようにと言いつけられ、ディノスもその言葉どおりにとどまるのだった。
まずメンデルのディスクが差し出される。

「これでメンデルが再建されるのだな」と愛想のない表情でイザークが述べる。
「そしてこれが、今後の革新計画の要となる“彼ら”のデータだ」
その上でサイは、もう三枚のデータディスクを机上に差し出すのだった。

 サイが提示した三枚のディスク。それはかつての英雄、そして一人の少女の生きた証でもあった。
そして今、彼らの想いはそれにかかわった者たちの願いへと変わる。それはこの世界の願いというかのごとく。

次回 機動戦士ガンダムSEED CRISIS
とりかえす命
再び始まるは、命のものがたり


  PHASE3:とりかえす命
大西洋連邦の某総合病院、そこに連合の士官が訪れた。士官のただならぬ面持ちに戸惑いつつも「地球圏の復興計画のために必要な情報がある」との要請に応え、看護師長がデータベースに案内し、士官はとある情報を入手する。
数日後、その士官はとある連邦の議員と会合し、病院にて入手した情報を手渡した。
「これが、そうなのか」
「そう、彼女のデータだ」

「サイ=アーガイル、お前は自分が何を言っているのか、分かっているのか!?
提示された三枚のディスクその詳細を知るや、イザークの開口一番の怒号が部屋に響く。しかし対するサイはいたって平静だった。
「これも世界の再生のためだ。かつて原初のコーディネーター、ジョージ=グレンに連なるセカンドコーディネーターたるキラを、再び蘇らせるんだ」
そこでサイは、先日自分が見た夢から始まり、後に考案したクローン計画の骨子を語る。
そもそも人類の革新計画はジョージのファーストコーディネートが出生関連等の諸問題を抱え、結局中途半端な形に帰結し、続くセカンドコーディネートは当のキラが試作段階のまま戦死してしまい事実上頓挫してしまった。
その上でキラたちをクローンとして蘇らせ、いわゆるセカンドコーディネートを完遂させるというのがサイの計画だったのだ。
「その上でキラ=ヤマトをはじめ、アスラン、ラクス、カガリをもセカンドコーディネーターとして真の革新を成さんと、いや待て・・・・・」
イザークはふとデータディスクの枚数に気が付く。“計画”のために本来4人分のディスクは必要なところ、現在提出されたのは3枚であった。
「確認のため言っておこう、たしかにプラントにはアスランとラクスのデータが保管されている。そちらに用意されたキラとカガリのデータで2枚必要なはず。しかしディスクは3枚だ。そのもう一枚、もう一人は何者だ」
イザークの問いにサイも厳かに応える。
「そう、その5枚目、彼女のことは君もよく知っているはずだ。フレイ=アルスターのことを」
「フレイ・・・ああ、かつてクルーゼが拾ったあの女のことか」
ふと革新戦争のことをイザークは思い起こす。多少煩わしさを覚えつつも一時クルーゼのもとに身を寄せた連合の兵士だった彼女のことを。後にクルーゼが連合の二重スパイだったことは知れ渡り、フレイ自身も彼の道具として後の戦争のキーパーソンとなっていたことまでは知っていた。
「しかしあの女、たしかにかつてのアークエンジェルのクルーであったのは分かっていたが、その縁あってお前は彼女も蘇らせようとするのか」
イザークの問いにサイは厳かに頷く。
「本来彼女も平和な時を生きるべき人だったんだ。それがかつての戦争に翻弄されてやがては命を落とした。この計画が終わった暁にはキラたちはもちろん、彼女にもその平和な時を生きてほしい。たしかに“これ”で生まれた“彼ら”は基本的に別人だ。だけど魂という概念では通じ合っているはずだ。そしてそれは彼女に何もしてやれなかった俺自身の罪滅ぼしでもあるんだ」
これを聞いたイザークは、多少苦笑交じりで応える。
「魂か、なるほどな・・・しかし所詮は酔狂だ。とはいえその酔狂、あえて付き合ってもいいがな」
その言葉に「すまんな」とサイは返す。
「別に礼には及ばんぞ、計画の実行には様々な要素が必要だからな」
というわけで、セカンドコーディネート計画についてイザークの、ひいてはプラントの協力を得ることができた。
用意された地上車に乗り、同じく用意されたキャリアーに乗せられたデュエルとともに帰路についたイザークは、さっそく評議会と連絡を取らんとする。
「人的資源委員長並びに科学技術委員長と連絡を、かねてから懸案があった“メンデル”の復興計画の骨子を話し合いたい」
先ほどとは打って変わった神妙な口調で語り出すのだった。

「サイはああ言ってるけど、私はそのクローン計画には反対よ」
その夜、自宅に戻ったディノスはミリアリアと計画のについての話題が上がり、まずミリアリアの意見が述べられる。
「だってキラやフレイを散々利用して、今度はそのクローンにその代わりを仕立てるなんて、サイの気持ちもわかるけど、少し虫が良すぎるわ」
「母さんはそのフレイって人のことを知ってるみたいだね」
「一応友達といってもいいけどね。彼女はわがままで性格悪くて、それでいて寂しがりやで、そう、人との関わりを常に大切にしていたのよ」
「たた普通の人ってわけじゃなさそうだね」
「実際心配なのよ、あの子のせいで革新、運命の両戦争が引き起こされて、その結果あの子が戦争の元凶と呼ぶ人もいるっているから」
それはカズイにも聞いている事柄で、カズイ自身もフレイに対しては同情的だったのを覚えていた。あとキラとフレイの関係もついでに聞いていて、これも時代のせいかなと感慨していくたこともあった。
そうこうと思案を繰り返す中、やがて軽い睡魔がディノスを覆い、後は次の日に持ち越そうと思いつつこの日は寝床につくのだった。
しかしその明け方、アジアのとある難民キャンプにて、卵形の飛行物体が舞い降りてきた。怪訝に思いつつ救援物資かと思い近づいていく難民たち。しかし次の瞬間、物体は辺り一面を光に包み周囲のすべてを巻き込み消滅していく。
その報せを聞き、驚愕するイザークたち。しかし次の瞬間モニターに映し出された一人の男、顔の右半分を巨大な眼帯で覆った端正な壮年の男。誰もがその名を呼ばんとしたその時、男の口が開く。
「わたしは、人々の、そして生きとし生けるものの命の体現たらんとするもの。そう、わたしの名は“ゲノム・ゼロ”」

ささやかな惨劇から幕を上げた大いなる地球の災厄
それは一人の男が繰り広げた復讐が生み出したもう一人の彼そのものであった。
はたして彼の野心の赴く先は、そして地球の、そして人類の運命やいかに。

次回 機動戦士ガンダムSEED CRISIS
その名は、ゲノム・ゼロ
再び奏でられるのは、ディスティニーの歌なのか。