各作品レビュー:タ行

 ダメおやじ(古谷三敏)

ダメおやじは昭和40年代より少年サンデーにて連載した、もとは赤塚不二夫先生のアシスタントとしてキャリアを重ねた後でのマンガ作品でもある。
高度経済成長期の残滓が残る東京の下町にてさえない中年男性が家や会社でいじめられつつも奮闘するのだが、やがて仕事や生活にも行きづまったころに一人の女性と付き合うことで大会社の社長となって、ようやく人生の余裕が出始めたころに改めて自分探しの旅に出る末、本当の意味で連載当初からの悲願であるやっと穏やかな生活を送ることになった。
そんなこんなで当初のギャグマンガから後期にて夫人の助言から先生のウンチクを盛り込んだ半ばヒューマンドラマへと話が進んだのだ。
またマンガメディア以外でもテレビアニメ化と映画化が成されていて、アニメは初期のストーリーに準拠したもので、映画は当時の人気タレントである三波伸介氏主演の当時のサラリーマン賛歌ともいえる人情ドラマとして製作され、その影響力の高さがうかがえた。
ともかくこのダメおやじ、ひとまずの底辺での奮闘からの好機をつかんでのサクセスストーリーにもとどまらず、自分探しの末のウンチクマンガの礎にもなったことでも、まさにマンガ史の1ページを飾るにふさわしい作品として人々の記憶に残ったことは今更述べるまでもない。


ちなつのシュート(青木俊直)

『ちなつのシュート』とは、92、3年ごろに“ウゴウゴルーガ”という番組のテレビコミックのコーナーとして人気を博していた。
ストーリーは主人公のちなつがふとしたことで出会った花園中学の西園寺さゆりに触発され始めたサッカーを通じて成長していくというものだけど、結構ライトなコミカルタッチが幼心に惹き付けられたものだった。
 それにただのコミカルにとどまらず、ライバルの必殺シュートが炸裂する等の結構ハードに進むと思いきや、対するちなつもお調子なノリで切り抜けるという、ある程度娯楽性も高いことも評価の一つかなと思うけれど。
 ともかくも、その放映したのが好評だったか、後に成長してサッカー選手となったちなつたちが、ワールドカップに挑んでいくというコミックが描かれたのは記憶に新しいところ。
そういえば先のなでしこジャパンのワールドカップ優勝、その一助、になったかなと思えば、ある意味微笑ましいものではないだろうか。


ついでにとんちんかん(えんどコイチ) 
『死神くん』で人間の生と死を通じてのヒューマンドラマを描いたえんどコイチ先生の一大ギャグ漫画で、コイチ先生の原点を再構築した作品でもある。
主人公は存在そのものがナンセンスでもある間抜作と東風、甘子たちなどのゆかいなキャラクターがこれまた誌面狭しと大活躍するのが主なストーリーでもある。
抜作たちの裏の顔である怪盗ものやら、抜作たちと張り合う女子高生やら謎の武道家やら、果ては宇宙からの来訪者やら、そして担当編集者をモデルとしたキャラの悪戦苦闘やら、これは今にしてみれば不謹慎だということで、ともかくもこれらが周囲のキャラだけでなく読者までも巻き込んでのギャグがともかく理屈抜きで繰り広げられたことで。
これもまた唐突なラストで締めくくり、結局一時代を築いてからある意味風のように去っていった。
ちなみにこのとんちんかんもアニメ版の奇面組の後番組として同じノリでの内容で放映されたものだったが、奇面組ほどのノリが得られなかったのか放映期間も短かった。
とはいえこのとんちんかん、先のお兄さん、奇面組と並んで80年代ジャンプを代表するギャグマンガとして歴史に残る作品でもあるけれどこれまたいかがか。

 デジタルデビル物語(ストーリー)(西谷史)

いにしえの悪魔を召喚して、荒廃した近未来を生き抜くRPGたる『女神転生』シリーズ、その原作が本作『デジタルデビル物語(ストーリー)』である。ちなみにゲームタイトルの『女神転生』はデジタルデビルの第一部のサブタイトルから取ったものである。
おもなあらすじとしては、天才的な学生プログラマーの中島が、悪魔召喚の儀式をコンピューターで代行し、その悪魔を召喚するも、やがて敵対し自らもいにしえの神々の血の宿命に基づき戦いを繰り広げる。
しかし結局悪魔たちの王ルシファー、そしてその影で暗躍した存在によって中島は倒れ、後に世界は滅び去るという結末を迎えるのであった。ことに世界が滅び去るエピソードは途中発売された『(旧)女神転生Ⅱ』のストーリーを受けて執筆された末のことであった。
ちなみに『真・女神転生』のリリースを受けて新たな世界観で作品を描いたがこれもゲームの世界観についていけなかったのか、中断を余儀なくされてしまった。
こういった無情的なストーリーはともかく、コンピューターで悪魔を召喚するアイデアが活かされ、ファミコンをはじめとして一大ゲームシリーズとなったのは述べるまでもない。


天地を喰らう(本宮ひろ志)

 80年代前半にて三国志をベースにした派生作品。後に本宮せんせいの歴史マンガの原点ともいえる作品でもある。
 大まかなあらすじはまず劉備玄徳の少年時代から始まり、幼いころの孔明と一緒に天界にて修業を行い、後に玄徳が先に下界に降りて関羽、張飛と出会い義兄弟の契りを結ぶ。後に黄巾の乱を平定した後、それを陰から操った妖怪どもを孔明とともに退治したがその怨念が各地の群雄に乗り移りやがては新たなる戦乱の火種になるといったところで「俺たちの戦いはこれから」とあいなったそうな。
 まあ結局本編は打ち切りということになったけれども、後にカプコンさんにてのゲーム化され、そこはある程度終盤まで話が進めたのだけれども。まあやはりストーリー的に原作の伝奇色が抑えられ実際の三国志に準拠してしまい、あと玄徳ら蜀陣営が天下を統一するという結果になったのもまた特徴であった。
あとその伝奇的要素がモーニングの『雲に乗る』に活かされ、後の歴史ものとして『赤龍王』『夢幻の如く』そして『猛き黄金の国』の礎となった。


 トイレット博士(とりいかずよし)

かつてジャンプ創成期において一時代を築いたともいえ、当時赤塚不二夫先生のアシスタントとして赤塚先生の作品を引き継ぐ形で少年ジャンプにて連載された当作品、同じ時期の『ド根性ガエル』と人気を二分するほどでもあったとか。中でも当時の風潮でもあるそのお下品さが一番のパンチを効かせてくれたが、今ではあまりにもお下品に過ぎるので抽象的に述べることとする。
はじめに頓珍漢ながらも正義感が強い科学者の頓珍漢な研究を中心としたかなりお下品なドタバタ喜劇が主なストーリーで、そんな博士にもライバルの悪徳インチキ博士とのシノギの削り合いやら、一見可憐なヒロインだがその実態はとてつもない化け物やら、その他諸々の奇人変人キャラクターを織り混ぜたものでもあった。
そんな中時期が昭和30年代の人情あふれる人間的ドラマも描かれていて、そのうちに博士に付き合った、あるいは付き合わされた子供たちが、中学進学の際に部活を選ぼうとしてどこもあふれてしまい、落ちこぼれ先生とともに半ば愚連隊を結成し学校を中心にこれまたドタバタ喜劇を繰り広げるにいたり、彼らがタイトルがそのままで事実上の後連載と相成ったわけである。
リーダーの先生は当時のとりい先生の担当だった、今や伝説の編集者でもある角南攻氏がモデルでそのキャラクター性から後に数多くの作品にもモデルとなった。
ともかくその愚連隊、学園内外をイタズラして回り周囲のチンピラには必殺技をひっさげて撃退し、時には仲間内でのシノギの削り合い、果ては先生がロボットになったり宇宙人になったりと結構バラエティーに富んだストーリーを展開してくれた。
こうして作品はひとまず円満に幕を閉じ、後にヤンジャンにてその後のストーリーか描かれ、コロコロコミックにてはロボットになった先生のエピソードをヒントとしたロボットの子供の活躍も描かれたが、やはり先の愚連隊張りのドタバタ喜劇に相成った。
いずれにしても彼らの活躍が後のジャンプヒーローの合言葉である「努力、友情、勝利」の先駆けともなり、いわば彼らの存在なくして後のジャンプヒーローも生まれなかった、かもしれない。


とべ!人類(尾瀬あきら)

今でこそ『夏子の酒』など人情的でヒューマンシップな作品をお送りしている尾瀬あきらセンセイの知る人ぞ知るSFマンガなのだけれど。
この作品を一言でいえば、戦乱で滅亡寸前の人類が数人の少年少女にたくした移住計画とその挫折の物語といったところ。
詳しい内容はこの際割愛することとして、ストーリーの骨子である人類移住計画について、非情なようだけれど計画そのものが杜撰だった。まず人員は主人公の少年を含め無作為で選ばれ、そのあとで地球から宇宙の果てに飛ばしっぱなしといったこれもまた無責任というほかは無し。それでもその当時は『十五少年漂流記』みたいなノリで描いたものだろうけれど。これが何故かある程度の人気を博していたので続編も描かれた。
これは未だ旅の途中の中、主人公たちの子孫が別々のグループに分かれて争い合うといったさらに救いようのない展開となってしまい、結果確かに今でも見ちゃいられないといった気持とともにこの後一体どうなっちゃうんだろうといった感想を抱いたこともここに述べたい。