北斗の拳・リュウ伝

80年代初頭、ジャンプより連載された“北斗の拳”
世紀末の暴力が支配する荒廃した世界で一子相伝の暗殺拳“北斗神拳”を駆使して闘う主人公ケンシロウの活躍を描いた
バイオレンスな描写と男の哀愁を醸し出しながらも痛快なアクション巨編として絶大な人気を博した。
同年代後半にて連載が終了してもなおその人気は衰えることはなく、様々な派生作品も世に出たことだろう。
そこで当HPは手前勝手を承知の上で最後期にケンシロウの継承者として選ばれたラオウの子リュウを主人公に、
ある程度の平和の中、再び世を乱さんとする者たちに敢然と立ち向かう様をここにお送りできればと思います。
なお述べるまでもないのですが、原作の北斗の拳及び各派生作品とは一応は関係ないことをここに述べることに致します。
以上のことをご了承の上、それでは、ごゆっくり。

プロローグ
前世紀末からの戦乱より世界は暴力が支配する混迷の中にあった。
その混迷を収めんと男たちは闘い、伝説となった。
そしてここにまた一人、新たな伝説を築かんとする男がいた。

とある荒野、一台のバギーが数台のバイクに追い回されていた。やがてバギーは岩盤に乗り上げ身動きが取れなくなる。
バギーから転げ落ちた男にバイクの男たち、いずれも若い不良風の男たちが囲んでいく。
「どうしてこんなことをする」と抗議する男にコツコツ働くなんてバカらしいと返し、バギーの物資をよこせと迫る。
それを拒否し不良たちに踏みつけられる男、バギーの物陰で怯える男の妻子、しかし一人の不良が何かに吹き飛ばされる。何者かと誰何する不良たち、そこには巨漢の青年が立っていた。
激昂して襲いかかる不良たちを拳一つで打ち払う。打たれた不良たちはいっせいに身体の異変を訴える。
その強大な容姿と力業にかつての支配者“拳王”の名を口にする不良たちに「俺は拳王ではない」と返しつつ、
「悪党というより、単なる跳ねっ返りのチンピラか、本気を出すまでもないが、せめてこの人の痛みを思い知れ」と、掌からの闘気で不良たちを吹き飛ばす。
その闘いぶりに何かを得心する男、そこに妻が駆け寄って「命ばかりは!」と若者に懇願するが、男がそれを制する。
「いや、俺もあいつらと同じだ」
妻をなだめつつ返す若者に男は訪ねる。
「しかしあの業を使えるのは、拳王さまお一人のはず。よもやあなたは」
「まさかあんたは、いや、俺は、ラオウの子、リュウだ」
と名乗りつつ、リュウと名乗った若者は乗り上げたバギーを片手で元に戻す。
「俺ができるのはこんなところだ、その先に村がある。もう一息だ」
そして寄ってきた子供に手を添えて、
「お前も男なら、どこまでも強くなれ。親御さんたちを守れるようにな」
と若者リュウは去っていく。リュウが去り行く様に、過去の思いがよぎる。
ケンシロウとラオウとの決戦近き頃、拳王軍の一団と対峙しそれを討ち破った際、数人の若者の怯えを感じたケンシロウはそのまま手を出さずに去っていく「拳王は俺が倒す、そしてお前たちは、生きろ」という言葉を残して。
その想いとともに元拳王軍の兵士だった男は帽子を脱いでリュウを見送るのだった。

同じ頃、フードを目深にかぶった女性を数人の荒くれ者が追い立てる。誰何する男たちに食べ物を所望する女性。近付こうとする男たちにその女性はいきなり手を広げんとするや、男たちの服が斬り裂かれ、その際に数筋の傷が刻まれる。
「まさかこの拳!?」と誰何せんとするも、恐れをなして逃げ出してしまう。その際に落とされた食糧を少女は拾いつつ、指先にこびりついた血を見てつぶやく。
「血か、これを見たら母さんが悲しむな」と、食料を口にしつつ再び歩みだすのだった。

第1話:水鳥の少女
水鳥の村
かつてケンシロウとレイが守りきったこの村は、今や緑豊かな、実りある地となっていた。
村の中心とある石碑、かつて南斗水鳥拳のレイ終焉の地に建てられたそれの前に、村長となったマミヤとレイの妹アイリが祈りを捧げていた。
「兄さん、あの娘はとうしているかしら」
「大丈夫、あの娘は強い子だから。無事彼のもとにたどり着ければいいけど」
「そうね、兄さん、あの子を、見守って」
空を見上げるマミヤとアイリ、空には一羽の小鳥が飛んでいた。

変わって荒野を歩む一人の男リュウ、先の事件から数日後、飲まず食わずで歩き続け、流石に疲労の色をあらわになった。
「水、いやその前に、食糧(メシ)を・・・・・」
それでも自らに奮起を促しつつ、歩みを進めるリュウは、そのうちにオアシスを見つける。
まずは渇きを潤せると急ぎ足でオアシスに入る。しかしそこには水浴びをしていた一人の少女がいた。
軽い動揺を覚えるリュウに少女はおもむろに空を引っ掻く。リュウの胸板に数筋の傷が付く。
「これは、南斗水鳥拳か・・・・・」
動じないリュウに今度は少女の方が動揺する。やがて両手を水面に置き、空高く飛び上がる。リュウは太陽を背に空を舞う少女の姿を見やる。
「巣立ったばかりの雛鳥か、俺と同じだな」
そしてリュウめがけて少女の両手が降りかかり、リュウは両手で受け止める。
「水鳥拳奥義、飛翔白麗か、思わず受けてしまったな。これが男のけじめなら自惚れかもしれない。まして拳士のけじめとなれば」
受け止められた少女の顔にも安堵の色が浮かんでいた。
「あんた、ラオウの子供のリュウでしょ」
「そうだ」
リュウの方も自らを見知られたことにむしろ安堵する。互いの手を放し、リュウは改めて告げる。
「できれば話をつけたいが、まずは服を着てくれないか」
「・・・うん」
少女の方も自分の姿に気付き泉脇の草むらに身を隠す。
ややあって服を着た少女とリュウが改めて泉外に座す。まず少女が名乗り上げる。
「あたしはユイ。南斗水鳥拳レイの妹アイリの娘だよ」
「やはり、そうか」
少女の名を知ることができたリュウ、少女ユイもリュウの心情を汲んでか、なお話を続ける。
「たしかに伯父貴はラオウに倒されたけど、その後最期の命を燃やして母さんとマミヤさんを守りきった。そのことは今でも誇りに思ってる」
「・・・・・」
ユイの言葉に陰りはなかった。
「そのラオウだって、野望の果てに最後ケンと己の誇りを持って闘い抜いた。それから今、あの二人の誇りと志はあんたがついているはずだよ」
「そう、ありたいものだな」
いくらかリュウの心は解きほぐされた。
「おそらく伯父貴以上の水鳥拳の使い手は現れないかもしれない。あたしは伯父貴の義の星とともに後の世に水鳥拳を伝えられればいいと思ってる」
「やっぱり俺と同じ、そっちの方がきっぱりしているな」
「そうかな、だったらあたし、あんたについていくよ。伯父貴だってそれを望んでるはずさ」
「そうか、すまない」
立ち上がり呼び掛けとともに手を差し伸べるユイにリュウもそのまま手を取り立ち上がる。ここに旅の仲間ができた。

第2話:無法のアマゾネス

北斗神拳伝承者にしてラオウの子リュウの旅についていくこととなった、南斗水鳥拳伝承者ユイ。しかしリュウの旅もあてもなかった故、さしあたりユイの故郷へと向かうことになる。そのユイの故郷、水鳥の村にたどり着き、村長のマミヤとユイの母アイリが出迎える。まずユイがアイリの胸に飛び込んで再会を喜び合った。その様を見守り一人立っていたリュウにマミヤが近付く。
「ラオウの子、リュウです」
「よく来てくれたわね、あなたのことは聞いていたわ。こんなところで立っているのもなんだから、村に入ってきて」
一礼の後、マミヤたちと村に入るリュウ。はじめレイの碑に立ち寄る。そこにはアイリの夫でユイの父ロイがレイの像の手入れをしていた。ユイとリュウの姿を認めもう少しで手入れが終わると告げるロイ。父をせかすユイをよそにリュウはひとまず見守っている。
やがてロイが像から離れリュウは厳かに一礼するや一筋の風がリュウに吹いた。
ラオウの息子よりケンシロウの後継者として迎えられたとリュウは、村人にも暖かく迎えられた。そこにマミヤが一つの話を切り出していく。
まずユイは水鳥拳を学ぶため修行に行かせ、帰り途中でリュウと出会うようにも言いつけたのだ。対してリュウは一通りの修行を終え、あてどもなく旅を続けていた。そこにユイと出会い、この村で自分のなすべきことをあらためて聞き出す。
そこに現れたのは一人の男。それは今や近隣の街の指導者となったバットだった。
「実はリンとの間の子が家出同然で旅をはじめたので、合流してこれからの旅の伴にしてほしい」とバットは告げる。
意外な要請も、半ば真剣に聞き入るリュウ。使命にしては軽いと文句をいうマミヤに対し、リュウは承諾する。もともとバットの娘は天帝の血を引く娘で、これからの世界の復興には欠かせない存在だったのだ。
ともかくもリュウは後日その娘を迎えんがため、ユイとともに再び旅立つこととなる。

変わってとある街の地下闘技場、そこでは非合法(現在でも無法なのは変わりはないが)の闘技が行われていた。そこで闘っているのはなぜか若い女たち。まず巨体の女が少女と組んだ末に激昂したのか次第に少女を打ち付けていく。しかしなぜか倒れたのは大女の方で、打たれ続けて顔を腫らした少女は静かに闘技場を後にする。
大女の方も数人の女闘士に控室まで運ばれる。そこで先に対した少女に、組んだ後体か勝手に少女を打ち続けていったともらす。
実は少女が大女に何かしらの細工を施し試合を盛り上げようとしたのだ。実はこの闘技場は近隣の若い女たちをさらって闘わせて儲けている代物だった。そのうわさを聞き付けた件の少女は、わざと捕まるふりをしてそこに潜入していたのだ。とある目的のために。
その後も他の女闘士たちの白熱した試合を繰り広げ、観客も大いに盛り上った。その中にはカーテン越しの物影に一人の男が部下からその盛況を告げられ、ただひとしおに喜ぶのだった。
やがてその闘技場に、リュウたちが訪れたのだ。

第3話:闇を斬る
数多くの女たちが闘いを強いられている闘技場、そこにリュウたち一行が訪れた。それに先立ちとある村からさらわれた娘を助けてほしいと若い母親から依頼されてここに来たのだ。
その女性はかつてとある軍人崩れの組織に両親を殺されるもケンシロウのおかげで立ち直った。その後成長し家庭をもって一人娘に恵まれるも、その娘がとある賊徒にさらわれたのだ。その手がかりがこの闘技場にあるというのだが。
変わって闘技場では件の少女と幼い女の子が闘い合わんとしていた。見るからに少女が女の子を倒すだろうと、観客も主催の男もそれを楽しみにしていたのは目に見えていた。
いざ闘いが始まるや、少女が女の子に何やらの技をかける。その際何やらを女の子に話しかける少女。ややあって女の子の動きが素早くなり、少女に襲い掛かる。少女は構えるも別段女の子の攻撃を防ぐまでもなく打たれるがままだった。しかし時間が立つとともに女の子も疲れ果て、そのまま倒れ込む。それをすくい上げる少女。
「お、お姉ちゃん、ごめんなさい・・・・」
「私は大丈夫、よく頑張ったわね」と女の子に語り掛ける少女。女の子を抱え上げて主催者に親指を立てつつ少女は闘技場を後にする。控室に向った先にあの大女が待ち構えていた。
「結構容赦なかったっすね、たしかにあたしと変わんないですけど」
「これでもあの時よりは優しい方なの。あんな程度じゃ母さんにも及ばないから」
その大女に付き添われて、少女は戻っていく。しかしたたずむ少女に主催者の部下たちが呼び寄せる。闘技場に乗り込んだ賊が入り込んだので、それを迎え討つよう指示されたのだ。その主催者が少女の使う業に目をつけてのことだった。

その乗り込んだ賊、リュウとユイに少女が対峙する。
「久し振りね、ユイ、そしてあなたが、リュウ」
リュウが重く静かにうなずき、少女は静かに構える。
「あなたたちの目的がこの闘技場なのは分かってる。かくいう私も同じものだから」
「望んだこととはいえ、結構損な役回りだね」
と、少女にはユイが対することになる。対峙する二人、少女の拳をすんででかわし、ユイの業が少女の胸元を切り裂き、あらわになりかけた胸をかばった隙にユイが少女に数発平手を繰り出す。これもさしてきいてないかにみえたが、少女は静かにユイに寄りかかる。

「後のことはリュウに、いえあたしに任せて」
「気を付けてねユイ、あそこを護っているのは恐ろしい拳法を使うって話だから」
少女が座り込んでから先に進むユイ。リュウも「大丈夫か」と話し掛けつつ羽織っていたマントを少女にかける。
まさか少女があの賊とグルだったかと驚愕しつつも、主催者は傍らの男に迎え討つよう言い渡す。

建物内に入ったリュウたち。中の回廊は一面の暗闇で一切の視界がきかない。そこでユイはこめかみの秘孔を突き、自らの視力を封じる。かつて母アイリの視力を治した秘孔、それの逆の効果を一時的にもたらすものだった。目が見えないと思うからかえって暗闇に迷うものならいっそということだった。
暗闇の中、音もなく襲い掛かる人影。しかしユイはすんででその拳先をかわし、あらためて低く構える。
相手も小娘と侮ってなおも襲い掛かるも、ユイの反り返りざまの脚刀が相手の胸板を切り裂く。
「この業は、貴様、南斗水鳥拳、いや、これは・・・・・」
「たしかに水鳥拳じゃ暗闇ではちょっと不利だけど、頭に思い浮かんだ業、紅鶴の構えからの白鷺拳が役に立ったかな」
「さ、流石は南斗水鳥拳レイの姪だ。この俺の無音拳など足下も及ばなかったか」
「もっとも、紅鶴はともかく白鷺拳も真似事に過ぎないから、本当に伝承した人がいるからね」
男はそのまま倒れ伏したのを見計らい、ユイが先に進み、リュウと少女がそれに続く。

主催者の部屋まで差し掛かり、怯える主催者にリュウがにじり寄る。怯えつつも金で懐柔せんとするがリュウも静かに告げる。
「己のみが安全な場所で人の苦しみを見届けんか、気に入らんな」
と、寸止めの剛拳を放ち、その風圧で主催者を吹き飛ばす。壁に叩きつけられ、さらにはその際に秘孔を突かれ一切の身動きが取れなくなった主催者。部屋の外からさらわれた女たちの親族も駆けつけてきた。あとは彼らの裁きを受けさせるのみとこの場を後にする。その後主催者がどんな目に遭ったかは語るべくもなかった。

闘技場は壊滅し女たちは解放された。そして女の子も少女に付き添われ、母親と再会した。その際少女が無傷で返せなかったことを詫びるも、母親は少女の面影からリンの名を告げる。
「私は、リンの娘。今は父の名を取って“ラット”と名乗っています」
ともかくも母親はラットたちに感謝の言葉とともに見送る。大女をはじめ女たちの大半~ラットに秘孔を突かれて体を強化した~は村の復興に従事することになった。
こうして闘技場の事件を解決したリュウたちは、新たに少女ラットを加え、さらなる旅を続けるのだった。

第4話:蔑まれた男
とある村にてかの元拳王軍兵士の男が訪れる。そこの村長たる少し足の不自由な男が物資の交易の交渉を行う。その傍らでは一人の卑屈な顔立ちの男が物資を運んでいた。しかし村長の男はその男を何かと気にかけているきらいがあったのだが。そのうち元兵士の男がリュウの存在を軽く語る。それに男が気にかけた感もあったのだが。

一方でリュウ一行は途中の村で先に助けた男の妻子と再会。リュウになつく子供の面倒を見つつ、妻からもと拳王軍の事情を話す。
そもそも拳王軍に所属した兵士は、ケンシロウに討伐された悪党のほかにも、ラオウこそ乱世を平定すると信じて所属した者。中にはかつての拳王軍の武将バルガを中心にラオウが斃れた後も各地の復興に力を注いでいた。
「そういえばあいつにもしばらく会っていなかったな」とリュウは昔日の修行の日々に想いを馳せる。それは今、南斗白鷺拳の使い手に選ばれ、最近修行を済ませリュウ同様に放浪の旅を送っていた。
一方で杖を突きつつとある村にたどり着いた一人の男のもとに、遊び回っていた数人の子供が近付いてきて、その中の一人が男にぶつかるも、倒れかけるその子を男がかばう。

その子はぶつかったことを詫びつつ、男が盲目であることを察するも、
「大丈夫ですか、君たちのことは見えていました。心配はいりません」
と、後に駆け付けた親たちから一晩の宿を提供される。旅の途中友人と合流しなければならないが、急ぎの旅ではないのでひとまずは言葉に甘えることにする。
戻って交易の村でリュウは一人の男の噂を聞き出す。その男はかつてケンシロウとの伝承者争いに敗れ、討伐された男を今でも崇拝しているとか。しかし今のリュウにはさして気にかける必要なしとひとまずは聞き流すに至ったのだが。
その途中で野盗の一群に出くわし襲撃されるも軽く退けたリュウ。今後もこういった小悪党と相手をしなければならないとあらためて思い知るのだが。
戻ってかの村にて、あの男が家族に散歩に行ってくると告げ、村はずれの一軒家。そこの隠された地下にたいまつ片手に降りていく。そこには砕かれた一体の銅像。仮面をかぶった男のそれに男が語り掛ける。
「もうすぐ、もうすぐですよ、ジャギ様。まああなたはそれを望んでいないやも知れやせんが、少なくとも俺の願いは、叶いそうですぜ」
男の表情には笑みが浮かんだ。いつもの卑屈な表情とは打って変わった満面の笑みの表情だった。
一方で先にリュウと対した野盗の長が、近所の村での取引を聞きつけ、ひとつ奪い取ってやろうと画策したのだが。

第5話:過去の裁き
旅の途中、件の元拳王軍兵士の男と再会したリュウ。家族の元に戻る彼との談笑の末、かつてジャギが支配した村の噂を告げ、先に気にかけなかったそこに、一抹の興味を抱きはじめ、旅の途中にとそこに立ち寄ることになったのだが。
その村に野盗の一団が村はずれの高台から見下ろしてから一斉に襲い掛かる。
村を蹂躙する野盗、そこに村の長がボウガンを片手に立ちふさがる。
「この村はあの人に救い出され、俺たちが築いた村だ、夜盗どもはこの村から出ていけ」
と松葉杖を支えにボウガンを構えるも、わずかな隙から夜盗の長の鞭でボウガンが奪われ続いての一閃でなぎ倒される。
一方近くの村に火の手が上がったのを認め、リュウたちが駆け付ける。
奪ったボウガンで村長を狙う野盗の長、それに観念したのか村長も静かに矢先に向き合う。そして矢が放たれるがそれを救ったのがあの卑屈な男だった。村長をかばった際に左足にボウガンの矢を受けて。
「ゲル、お前・・・・・」
「ここでお前に死なれちゃ、お前の弟や、ケンシロウさんに申し訳が立たねえ」
そこに野盗の長がその卑屈な男に吐き捨てる。
「おいゲル、お前ジャギ様にかわいがられたはずなのに今になって裏切るのか」
「違う、たしかにジャギ様を倒された恨みは捨てきれねえ。だがこんな俺を受け入れてくれたこの村の義理も忘れちゃいられねえんだ」
「いい覚悟だ、じゃあ二人仲良くあの世に行きな」
代わりのボウガンの矢を込めて二人に狙いを定める盗賊の長。しかしそこに現れたのはリュウたちだった。
その姿に、卑屈な男ゲルは「拳王さま・・・・・」と口を漏らすもそれはリュウには聞こえなかった。
リュウはともかく女子供連れなのでさしあたり配下の悪党たちが付き添いの二人に狙いを定めるも、ユイはともかく拳法の心得があるラットは難なく彼らを蹴散らしていく。
残るは長一人となり、そこから醸し出される血の匂いを感じ取り、今まで暴虐と殺生を繰り返したかと察し、静かに怒りを込める。
「残るは、お前一人だ」
そしてラオウ譲りの剛拳を連打しての百裂拳を繰り出して浮き上がらせ、とどめに指をどてっ腹に突き刺す。

「北斗有情新血愁」

その業に(これは、伯父貴を倒した業)と思いつつもユイはリュウの哀しげな眼を気にかける。
「せめて、苦しみを知らずに死んでいけ」
恍惚の表情に悶える長。そして剛掌破で打ち上げられてやがて肉体を四散してしまう。
闘いを終え息を整えんとするリュウにユイが労うように声をかける。
「汚い花火だけど、こう打ち上げたら、何も見えないね」
「そうだな、これも北斗の宿命というやつだ」
リュウもその言葉に応える。そこにゲルが傷付いた足をかばいつつ声をかける。
「ラオウ様の一子、リュウ様ですね。俺はかつてジャギ様の一配下たるゲルというケチな男でさあ」
「ああ、大丈夫か」
「へい、俺はともかく村長の方が心配でさあ」
「いや、俺も大丈夫だ」とゲルを気遣いつつ、村長もリュウに近づいていく。
「わたしはこの村の長コウ。この村はご存じのとおり、かつてジャギに支配されていましたが、ケンシロウさんによって救われ、今に至りました」
ゲルの方はラットたちの介抱を受けて過去のいきさつを話す。

「あれは、このジャギ様がこの村を支配していた時のことです」
その村でケンシロウがジャギを討伐し、この地を去ろうとする時、
「ジャギ様がやられた、ここももうおしまいだ」
「やはりあの方(拳王)のもとに行くっきゃねえ」
ジャギ配下の悪党たちが一斉に逃げんとする中、幼きゲルは呆然としつつ天井を見上げる。
「ジャギ様が、やられた、あのケンシロウに・・・・・」
いつしかゲルの手には槍が握られていた。
「俺が、ジャギ様の、仇を討つんだ」
ややあってケンシロウがビルから下りてきた。
「・・・あの、二人が、生きていた、のか・・・・・」
そんな半ば呆然としていたケンシロウに、ゲルが心臓めがけて槍を突き刺した。
「ジャギ様の、仇だ!」
しかし槍は胸の筋肉に阻まれて突き刺さらない、槍がケンシロウの胸を離れ、胸には傷すら残らなかった。ゲルの目の前には彼を見下ろすケンシロウが立ちはだかっていた。
「・・・だめだ、俺は、死ぬんだ、秘孔ってやつを突かれて、体が爆発して、死ぬんだ・・・・・」
しかしケンシロウがゲルの額に掌を当てるのみだった。
「お前の怒りと憎しみ、そして哀しみは受け入れた。お前は、生きろ」
そして静かにゲルのもとを去っていく。
「それから村の復興が始まり、かくいう俺も、他の村人に煙たがれつつもそれの手伝いをはじめ、やがてコウをはじめ他の村人にも気づかわれ今に至ったんです」
と、回想をしめてからゲルは結ぶ。

「あと、お見せしたいものがあります」
と、ゲルは街の郊外にある、あの廃ビルの地下にリュウたちを招く。
「やはり、これか」
と、コウが朽ちかけたジャギの像を見て言葉を漏らす。実はコウもジャギの像のことは知っていたのだ。
ここは男同士の話合いということでユイとラットは場を外す。
「はい、数年前見つけたこの像をここに運び、あとラオウ様に子供がいたという噂を聞き、こうやってこの像を護りきったわけです。秘密にしたのは今更村を裏切ると思われたくなかったわけでして」
「それで、俺にこの像をどうしたいわけなんだ」
問うたものの、リュウも、そしてコウもゲルの望みは分かっていた。
「悪党としてのジャギ様は倒されやしたが、おこがましいながら、北斗神拳の伝承者を争った者として、葬ってほしいのがせめてもの望みってやつでして」
「分かった、俺も壊す事しか能がない、ケンや親父のように時代を創るなどおこがましいが」
と、ゲルの願いを快諾する。ジャギの像を前にリュウが立ち、それを背に二人が見守る中、
「ジャギの叔父貴、あんたも次代に狂わされ、時代によって殺された。そんなあんたをまた裁く権利はない。俺の手によってならおこがましいが、あんたの魂がいくらか時代に解き放なたれれば」
心の中のリュウの独語とともにリュウの天掌奔烈が放たれた。像は粉々に砕かれ、その塵は天に昇ったかにも見えた。
それを見届けてのち、次の旅路につくリュウたちを見送り、コウとゲルは肩を組みつつそれぞれの家族をはじめ村人たちに迎え入れられる。
その後ゲルは今までの卑屈な表情は見せず、村の発展に貢献したのだった。

第6話:南斗の陰

旧帝都郊外の簡素な一軒の屋敷に一人の初老の男が訪れる。
彼は元拳王軍武将バルガであった。そんな彼を一人の男、バットが迎え入れる。
技量と才覚なき身ながらと自嘲ぎみに自らの役割をこなすバットに、信頼ゆえに役目を託され、それに応えているとバルガも評していた。
そんな二人は現在の状況を話し合う。まずバットの娘ラットが無事リュウと合流できるも、バルガの息子の方はいまだ合流していないという。
バルガもよもや息子が南斗白鷺拳の使い手に選ばれることに驚きつつも息子シンゴの無事とリュウとの合流をバットも期待する。
それと同じくいまだ世界を覆う不穏な影について語り出す。それは南斗六聖拳の影として常に歴史の闇に暗躍していた南斗聖魔拳の使い手が姿を現しつつあるというのだ。

変わってとある村、あの盲目の青年が滞在している村に元兵士の男が物資を運んできて、村人たちがこぞって運び出す。それをなんとあの青年が、世話になったお礼といって杖を置いてから一番重い荷物を運び出す。その様に村の男の一人が青年の素性を語り出す。
彼こそが拳王軍武将バルガの息子シンゴであり、かつて村の男の主君たる聖帝サウザーと互角に渡り合った南斗白鷺拳のシュウの後を受け使い手に選ばれたという。
そういえば村人の中にもシュウに育てられ後に成長した子供もいて、荷物を運ぶ様にかつてのシュウの姿を思い起こす者たちもいた。
そこに野盗の一団が襲撃してくるという知らせがもたらされる。村人はすかさず避難し、一部は野盗に備えるべく武器を手に迎え討たんとする。青年シンゴも子供が届けてくれた杖を受け取り、野盗に立ち向かわんとする。
「まさか、目が見えないのに大丈夫か」と村の男が問うも、
「大丈夫です。僕には心の目、そして足下に及ばないまでもシュウさんの業があります」とシンゴも返す。
迫りくる敵に表情を引き締め、まず突出する賊徒を回し蹴りで切り裂き、バイクで突っ込む敵を杖を軸に蹴り払う。
「まだこれに頼りきりですが、これなら僕一人でもいいでしょう」
と、またたくまに野盗をまさに蹴散らしていく。しかしその賊徒の服の背中に描かれた紋章を目に村の男は驚愕する。
「まさか、奴らが動き出すとは」
それを裏付けるかのごとく、倒された夜盗のリーダーらしき男が発煙銃を空に向かって撃つ。その合図からややあってバイクの爆音が響き渡る。
やがては先ほどより多数の一団が現れ、今まさに村に攻め込まんとしていた。今度ばかりは村の男達も覚悟とともに武器を手にする。
しかしその一団が真横に吹き飛ばされる。その直後一台のバギーが到着する。そこにはラットとユイ、そしてリュウが乗っていたのだ。
「まさか、拳王、さま・・・・・」と村の男が呼び掛ける。
「いや、俺はラオウの子、リュウだ」とリュウも返す。
「待ってましたよ、リュウ」とシンゴも呼び掛ける。
「とりあえずあいつらを蹴散らしてから事情を聴こうか」と、一団に向かって撃破していくリュウたち。たしかに死闘だったがリュウたちにとってはさほど苦戦をするそぶりはなかったが。
「ほとんど殺っちゃったね」
「奴らはそれなりの一団だった。その覚悟と意気があったなら俺たちもそれなりに対しなければならない」
ユイの言葉にリュウも内心苦々しげに応える。そこに村の男が賊徒の屍の紋章をあらためて確かめる。
「間違いありません、これは南斗聖魔拳の一門」
その言葉にリュウはふとユイとシンゴの方を向く。南斗聖拳の使い手である二人にとってはまさに動揺を禁じ得ない言であった。
「噂には聞いていたけれど、まだ滅んではいなかったのね。伯父貴たちがいたころはうかつに動けなかかったけれど、今になって・・・・・」
「いずれにしても、僕たちもまた彼らを制しなければなりません、レイさんやシュウさんがそうしたように」
「ああ、これは俺も出向かなければならないな」
と決意も新たにリュウも拳を引き締める。いずれにしても新たなる時代に新たなる死闘の到来を誰もが感じずにはいられなかった。

第7話:白き相棒
リュウたちが旅を続けている中でもたらされたかつて歴史の陰にうずもれた“南斗聖魔拳”の再台頭。それに対するため再び旅を続ける中、とある台地に差し掛かる。
それに対し、リュウも何かを思い出すように口を開く。
「すまないが俺はここに立ち寄らせてもらうよ。あとで先の村に追い付くから」
「いいけど、ここに何かあるの」
「ああ、ちょっとした、墓参りだ」
ユイの了承を受けてリュウは車を降りる。そして件の台地を上るのだった。
台地には一面の花畑、その中心に盛り上がった土に一つの石の碑が置かれていた。リュウはそこに至る小路を進み、その碑に向かい、膝を降ろす。
「俺もようやくここまで来たよ。まだ時代は乱れんとしているけれど。必ず鎮めてみせる。もちろん親父とは違うやり方で。もちろんケンには及ばないけれど。ともかく俺なりに収めてみせるよ、母さん」
こうして“墓参り”を済ませたリュウは、台地から降りんとしたその時、1頭の白馬が佇んでいた。その白馬はもちろん巨馬だったが、リュウの巨体に比べればやはりその大きさは陰っているのは言うまでもない。
「この馬は、黒王に比べればちょっと小さいが、そうだ、お前はあの黒王の子供か。だったら・・・・・!」
すかさず白馬に乗らんとするリュウ、しかし白馬はリュウを振り落とす。
「おっと、そうやすやすと背中を預けてはくれないか、いいだろう」
こうして、リュウと白馬の“戦い”が繰り広げられる。リュウが白馬の背に乗らんとすれば白馬はそれを振り落とさんとする。ようやく背に乗ったかと思えば、白馬は振り下ろさんと暴れ回る。
一方近くの村でリュウを待っていたユイたちも、その村から見える台地が揺れ動いているかに感じ、何やらが起きていると気付く。
「一体どういうこと、でもリュウだったら大丈夫かもしれない、けれど・・・・・」
こうしてややあって、体中かすり傷のリュウが件の白馬の背に乗ってやってきた。
「お帰り、リュウ、でもこの馬は」
「この馬、まさか、黒王号の」
「そうだ、その息子だ。かつて黒王は自分の子供を生み出さんとしたが、その馬は傷付いてで永く生きられなかった。それが今に至り、生まれ直して俺のもとにいたということだ」
リュウが白馬の背に乗らんとした際その心を知り、その過去、ひいては前世の想いをも感じ取った。それと同じく、かつて修行中に黒王がリュウのもとを離れていった。そこには一回り小さい牝馬を伴っていた。リュウも別れを惜しみつつその二頭を見送ったのだ。
「そうだ、お前はまさに黒王の子、今からお前を白王と名付けよう」
その馬、白王は雄々しくいななき、その後でリュウは白王の背を降りる。
「今はまだ、お前の背を預かるわけにはいかない。本当の強さを知って後、お前を迎えに行こう。それまで待っていてくれ」
厳かなるリュウの宣言に、白王は少しの間を置き、高らかにいななきつつリュウたちのもとを去る。そこには数多くの馬の群れ、おそらく彼の子分たちだろうそれらが待ち構えていた。

そんな白王を見送りつつ、リュウたちもまた旅を続けるのだった。
第8話:偽りの怒り

旅を続けるリュウのもと、元拳王軍兵士の男が現れ、近隣の村が襲われたという知らせをもたらした。
また聖魔拳の者たちかと、現地に駆け付けるリュウたち。そこは無惨な破壊の跡が残っていた。
生き残った者たちが言うには、賊は怒れる野獣の如くに破壊の限りを尽くし、中には体中が爆発して果てたものたちもいるという。体中の爆発とはまるで北斗神拳だというラットの言葉に、一抹の不安が一同の脳裏をよぎる。
ともかくも襲撃された村々をくまなく調べんとするリュウたち。そういえばかつて拳王軍にはアミバという幹部の男がいたと聞く。やり口は彼と同じならアミバ同様にトキの叔父貴の名を穢す者なのでそれを討たねばならない。ましてアミバを信奉しているならば、彼と同等若しくはそれ以上の暴虐をなさんとするのならば。
そして調べを進めていくうちに賊が現れる範囲からとある山を根城としている集団がありという情報も聞き出すことができた。
その根城にて、とあるチンピラがとある男にある秘術を施されんとしていた。
「本当に強くなれるのか」という男の不安げな問いに「俺の秘術は完璧だ」と嘯く言葉とともに首筋に指先を打ち込む。ややあって男はこの場を離れ、代わりに数人の荒くれ者が現れチンピラに襲い掛かる。チンピラはまるで怒れる野獣の如くに荒くれ者たちをなぎ倒すも、そのうち上半身を爆発させて果てていく。
「実験は失敗だな」とぼやきつつ変わりのものを用意するよう背後の部下に指示を出す。
そして背後の壁に飾られたとある男の肖像に向かい告げる。
「時代は変わりあの男も死んだも同然、ならばあなた様の名も再び輝く時が来るでしょう、アミバ様」
男の眼光が不気味に光る。そして再び暗闇の中に男の姿も消えていくのだった。

戻ってリュウたちも他の村にて謎の一団と出くわし、それらと対峙する。その一団には共通してヘッドギアらしきものを装着しており、はじめリュウたちの強さを確認するやそのヘッドギアのスイッチを押す。はたして男たちは軽いけいれんの後に突然狂暴化し、再びリュウたちに襲い掛かる。それに対しまずユイとラット、そしてシンゴまでも押されつつあり、ひとまずリュウが3人を下がらせてから剛掌破で男たちを吹き飛ばす。そして男たちのほとんどが体を爆発させて果てていった。
それを遠目に見ていた男たちがひそかに逃走せんとするもそれをとある男たちに阻まれる。それは先に旧拳王軍の男を襲い、リュウにとって撃退されたチンピラだった。彼らもリュウの強さと度量に敬服したのか、今や進んでリュウたちに協力しようとしたのだ。
逃げようとした男に近付くや、リュウはすかさず張り倒す。自決せんとしたのを止めるためだった。
「こいつには聞きたいことがある」と続いて秘孔を突き、賊の正体を聞き出す。頭目の名はザメハ。かつてトキになりすまし悪事の限りを尽くしたアミバの信奉者だという。

やはりといった感慨とともに、リュウに怒りの火が灯りはじめるのだった。

第9話;真なる怒りの拳
その夜、チンピラたちに今までの賊の動向を聞き出すリュウ。多少乱雑に描かれた地図の写しに書かれたペンを追って、一つの山があった。まずはリュウたちがそこへと向かい、続けてチンピラたちも少し遅れつつも追っていく。
件の山には少し大きめの砦が建てられ。リュウたちもそこから発せられる邪気を感じ取り、ひとまず正面から乗り込むことにした。
それを察知した砦上層のザメハ。さしあたり実験体の兵士たちを差し向ける。
「ようこそ、ラオウの子リュウよ。これこそ我が実験体、怒りの兵士たちだ。さあ存分に楽しんでくれたまえ」
砦から出てきた荒くれ男たち。やはりヘッドギアからの秘孔が付かれ。全員怒りにとらわれて一斉にリュウたちに襲い掛かる。
まずは組み手で男たちを退け、それでも立ち向かってくる敵に。己の気とともに怒りを爆発させる。それはあたかも静かなる蒼き炎の如くで、後方で控えているユイたちはともかく、駆けつけてきたチンピラたちにも感じ取れた。
あらかたを退けた後にそのチンピラに気付いてか背中で告げる。
「お前たち、来るなと言ったはずだ。奴らは俺だけで十分だ」
「へい、やはり旦那も怒ってるんですね」
「そうだ、すべてを破壊する怒りではなく、そう、不浄を滅する怒りってやつだ。ともかく、待っていてくれ」
それは、かつてリュウと戦って思い知った彼の怒り。それよりも強く大きなものだった。それに畏敬を感じ、そのまま立ち尽くすもやがてラットに促され、砦を後にする。
その後砦内部の回廊で襲ってきた荒くれを退けつつ、ついにはザメハのいる最上階にたどり着いた。
ザメハがたたずむ部屋の壁には一人の肖像画が飾られていた。それこそが叔父トキの名を騙り偽りの北斗神拳を操り人々を苦しめた男、アミバだったのだ。
「なぜアミバを継ぎ人々を苦しめる。なぜその業で人々を苦しめるのだ」
リュウの問いにザメハも厳かに応える。
「そう、なぜならば俺にとってトキは偉大過ぎたのだ。俺が事を成そうとしても常に奴の影が付きまとい、俺は二番煎じよ、トキの影に過ぎぬよと蔑まれるのみだ。ならばいっそ・・・・・」
「・・・いっそアミバを継いで人々を支配せんとしたのか」
「そこまで言えば分かるだろう。お前も俺の秘術の前に屈するがいい」
その言葉にリュウの怒りも燃え上がり、上半身の衣服を闘気で破り捨てる。しかし攻勢に出ることはなかった。
「ならば打ってくるがいい。お前の秘術とやらが俺に通用するか否かを」
その言葉に激昂したか、ザメハも飛び掛かりありったけの拳をリュウに打ち込んでいく。強くても薄皮に傷をつける技の数々だったが、やはりリュウには通用するはずはなかった。
「やはり、こんなものか・・・・・」
そして再び自らに肉薄せんとした時に、ザメハの両こめかみに手刀を打ち込む。
「経絡秘孔の一つを突いた。もはや今までの記憶は消した。お前を討ち取るはたやすいがそれではお前の、そしてアミバの罪も注がれぬ。これからは一人の凡人として生きるがいい」
こうしてリュウはザメハのもとを去っていく。彼がこれからどう生きるかあるいは野垂れ死ぬかは言ってしまえば知ったことではなかった。
ともかくもややあって砦を後にしたリュウ。待ち構えたユイたち、ことに帰還を喜んだチンピラにも軽い笑みを浮かべつつこの場を後にする。
こうして偽りの北斗の騒動も収まり、また一つ成長したリュウの姿がここにあった。
第10話:北斗を継ぐもの
元斗の争乱が収まり、平和と復興が成されたはずのこの地も、先の南斗聖魔拳の台頭で再び不穏な影を落としていた。
そこに一人の男が訪れた。奇しくもそれを追った数十人の賊が男を取り囲む。
「お前たちは、やはり命がいらぬのか」
男の言葉に耳を傾けず、一斉に襲い掛かるも徒手空拳で退け、直後賊の肉体がはじけ飛ぶ。
「・・・また無駄な命を散らさねばならぬのか」
自嘲交じりの言葉とともに、男は去っていく。

一方のリュウ一行、一連の争乱についての対策を立てるため、一旦水鳥の村へと戻る。
しかしそこにはかのケンシロウが待っていた。
「どうしてここに」とリュウが問いかけるも、ケンシロウの意図は自分の強さをあらためて確かめることでもあった。
「お前も、俺も、歴史の闇を未だ知らない」と返すケンシロウ。もはやかわす言葉もないとばかりにレイの碑の前で構える。
その意図を理解しつつもあえて言葉を出さず二人の対戦を見守るマミヤたち。
はじめ拳の打ち合いからの組み手から始まり、続いては闘気を繰り出しての押し合いへと闘いを繰り広げる。
「よくここまで強くなった。ならば今こそ、この業を試すことができる」
ケンシロウが北斗七星の構えを取り、リュウもそれに応えて構えを返す。そしてケンシロウの拳が繰り出される。
「この業は、やはり、いや・・・・・」
ケンシロウの拳がリュウを捕らえる。しかしリュウはその拳をあえて防がず、体で受け止める。これにはリュウの肉体もダメージを受けたかにみえた。
「どうして、防がないの」とユイが問う。
「防げないのではなくて、この業は、防いではいけないの」とマミヤが返す。

それはかつてラオウが拳王を名乗る前に出奔する際、師父リュウケンがラオウを阻まんとした際に繰り出した奥義・七星点心であったのだ。
リュウとしてもたしかに初めて見る業だった。しかしそれをはじめ構えた際に理解し、それは見切って防げるものではなく、受け止めて初めてその極意を学べるものだったのだ。
だがさしものリュウも積み重ねたダメージで、今にもその身を砕かれんとしてた。
しかしリュウは歯を食いしばる。その射す眼光はまさにかつてのラオウそのものだった。そのむき出しの闘志でリュウは再び立ち上がり、ケンシロウの拳を受け止めんとする。
「俺はあなたを超えるために今まで修行をしてきた。しかしそれは違っていた。あなたにとっては親父、ラオウは強大な存在だった。それと同じにケン、あなたも強大な、偉大な存在だった。その強大な存在があってこそいつまでも強くなれるのだ」
「そうだリュウ。今お前が俺の拳を受け入れることにより、俺の強さをかみしめ、そして自らの強さとなっていく。俺の拳をすべて受け入れてこそ、お前が、俺を超えるのだ」
そして最後の拳を仁王立ちでリュウがその胸板で受け止めたその時、ケンシロウが膝を落とす。思わずユイとラットが駆けつけんとしたが、それを気遣いつつ制する。
「大丈夫だ、たしかに俺の体は病に侵されている。だがそれですらも俺は受け入れている。いずれにしてもまだ死ぬ時ではない、そしてリュウ、お前にはまださらなる戦いが待っているだろう。だが更に業を乗り越え、時代を開くのだ」
万感の想いで応えるリュウ。そして多くの人々に見送られるままにケンシロウは村を後にする。

やがてある旅人がとある悪党に追われ、助けを求められるままに悪党に対峙するとき、
「一つしかない命だ、粗末にするな」

と、眼光が悪党を貫き、そのまましり込みをする。旅人の礼もそこそこにケンシロウは再びあてどもない旅を続けていく。

第11話:天、動く
リュウ一行は南斗聖魔拳の行方を追うべく、ジュガイの村を訪れる。もとは奴隷商人の街だったが、かつてのケンシロウとの抗争で崩壊し、生き残った姉妹を中心に復興する。やはり南斗聖拳ゆかりの村ということで、半ば体が不自由な村長姉妹を気遣いつつ聖魔拳の情報を入手せんとしたのだ。
そこに一人の男が訪れる。先代元斗皇拳の使い手ファルコの従者だった男サイヤは、ファルコの息子が育った村が最近聖魔拳の襲撃を受け、最近活躍を見せるリュウの助けを求めこの村を訪れたのだ。
村長の用で村に残るラットを残し、サイヤの導きでその村へと赴いたリュウたち。そこには半ば破壊された家々とそこに住まう人々、そしてその中心にファルコの妻ミュウ、そして息子のティウスがいた。
何者かと誰何するティウスにサイヤがリュウたちを紹介するも、ティウスは助太刀など必要ないと悪態をつく。
半ば憤るユイとは裏腹にリュウはそっけなく流し、一行はその村で一夜を過ごす。
その夜目覚めたリュウは、気の流れを感じ取り目覚め、その気をたどると、そこにはティウスが皇拳の修行を行っていた。
小さめの岩に気をぶつけ、それを砕くだけで精一杯なティウスはあらためて自分の未熟と無力を嘆く。
そこにリュウが現れ、何しに来たと問われるも「ようやく基本を会得したんだ。そこから腕を上げればいいだけだから背伸びする必要はない」と返しつつ、少し大きめの岩を放った気で砕く。
その破壊力に圧倒されつつ、ティウスはリュウの眼に浮かんだ何かを感じ取る。
「これでもまだ親父、ラオウには及ばないんだ」
その言葉にそもそも覚えもなかった、かつて元斗の村を攻めたラオウとファルコの対峙の様がティウスの脳裏に浮かんでいく。
拳王軍を退かせるため自らの足を犠牲にしたこと、去り際後の争乱の元凶たるジャコウ抹殺をラオウに言い渡されたこと。その後のケンシロウとの闘い、そしてその争乱の後ジャコウとの決着をつけたことなどを。
物心つく前から父ファルコの偉大さを聞かされたティウスは、はじめ父を継がんと修業を行っていたが、度重なる聖魔拳の軍との攻防で自分の未熟と無力を思い知り、強くなろうと半ば焦っていたことを打ち明ける。そのうちに自分の心のわだかまりが晴れたような気がした。そう、リュウの眼に映った彼自身の哀しみ、それに根差した闘志をティウスも感じ取っていたのだ。

後日、賊の一団が村を襲撃する。南斗聖魔拳・贄の星のバラム配下の一団である。目的はもちろん元斗の抹殺でもあり、別動隊が先に訪れたジュガイの村を制圧せんと乗り込んでいるとも告げる。
かの村のことを案ずるユイにリュウは大丈夫だと告げ、ティウスにはまず自分の戦いを見届けるよう言い渡す。そういえばリュウとティウスはいくらかの打撃痕が見受けられていた。
一斉に襲い掛かる賊をまずリュウの剛掌破で吹き飛ばしてから「先の取り組み通りにすれば奴らなど怖れるに足りない。大丈夫だ、自分を信じろ」と告げティウスを続いて向かわせる。

ところ変わってジュガイの村、そこでの一団はこれあるを予想した元北斗の軍並びに元天帝軍の有志が村の防衛に駆け付けていた。ことに同じく駆けつけたのはバット。少し不自由な体だと嘯きつつ片手の松葉杖を操っての体術を駆使して数多の賊を倒していく。
案じて駆け付けたラットを気遣いつつ、最後の巨漢の振り下ろす巨斧を松葉杖で受け止めてからアインに及ばぬゲンコツと嘯く拳の一撃で退けていく。
こうして村を守り切った有志軍を残してバットとラットは元斗の村に向かう。

戻って残りの一団と対するティウス、案ずる母ミュウをよそに続いての襲撃を危なげない体の流れで退け、ついには一団の長、バラムに取り入ったジャコウの末子に狙いを定める。
今まで村を襲い多くの民を殺戮した憎き敵、構えたボウガンも眼光一閃で吹き飛ばし、ついには掌底で敵を打ち飛ばす。先の取り組みの修行でいくらかの拳の極意を得たティウスだったが、後方で自分を案ずる母のことを想い、ひとまずは手加減で倒したのだった。
「まだ父さんの足元には及ばないな」
「でも立派でしたよ。これでお父様も喜んでいます」
そこにバットたちも駆けつけ、特にラットがリュウたちに遅れたことを詫びつつティウスたちの前に現れると。ティウスとミュウをはじめ元斗ゆかりの者達がこぞって膝を置く。
対して自分が現天帝ルイの姪で今は旅人ラットと名乗りつつ、元斗の人々を労っていく。
一方でバットはジュガイ、元斗の両村のことは任せろと告げ、現在バラムの軍と戦っている一団がいるとリュウたちに告げる。それはかつて元斗との抗争時にケンシロウを助けた賞金稼ぎアインの娘アスカ率いる義勇団である。
リュウ自身彼女を助けなければならないと思いつつ、さらなる修行のため村に残るティウスたちの見送りで再び旅を続けるのだった。

第12話:俺のユリア
かつて元斗の軍に征服され、後に北斗の軍に解放されたとある村。そこの片隅に建った小さな墓に参る一人の女性がいた。
「・・・それじゃあ、親父、行ってくるよ」
彼女の後ろに控えた屈強な男たちが待ち受けていて、いずれも彼女の“親父”にゆかりの男たちとともに、村を後にする。

一方ジュカイの村にてかのアスカのことを聞き出すリュウ。バットから彼女のことを聞いて助けるよう言い渡されたが、あらためて彼女の素性を知ろうと思った。
そもそもアスカはアインがかつて愛した女性から生まれた娘で、彼女のため強い男たらんと賞金稼ぎの路を歩んだアインをいつしか実の父以上に慕ってきた。
そんなアインが騒乱で命を落とし、アインゆかりの者達によって育てられ今に至った。彼の生き様を継ごうと思ったのもこの時期からだった。とはいえ女の身であることを考慮し、まずはケンシロウとともにしたマミヤを規範として自身の闘い方を模索せんとし、時折訪れたバットにも戦術云々を学ぶことになる。
これもアスカに言わせれば「あたし自身の力はともかく、バットさんもかつての五車星のリハクって人の足下に及ばないっていうから、学んだ戦術もチンピラや盗賊には有効だけどね」といったところだ。
ともかくもアスカの一党は何としても守らなければならない。リュウたちも村を後にし、アスカたちの居所を探しつつ戦いの場へと向かうのだった。

一方聖魔拳側も北斗、元斗の軍にあたる一方で、最近頭角を現したアスカの軍勢をひとまず片付けねばならぬと、分隊を前者2軍に当たらせ、本隊をまずアスカに当たらせるのだ。
はたしてバラムの強大な軍勢にあたるアスカ。誰もが勝ち目がないと洩らし、退却をも口に出さんとするも。
「だめ、ここで退いたら後方の村がやられちゃうよ、あそこも親父が世話になっていたんだ。ここで踏み止まらせなくちゃ」
その言葉に奮い立ったのか、取り巻きの男たちも彼らに対し踏み止まらんとする。

一方でリュウたち。荒野の悪路であまりスピードが出ないのにあせりの色を禁じ得ないリュウ。
「くっ、もう少し速く走れないのか」
「こんなデコボコじゃ走ろうにも走れないよ」
「あれ、何か近づいてくる」
それは白い巨馬、先にリュウが乗りこなさんとしたあの白王号だった。
「やはり来てくれたか、白王」
その白王もリュウに乗るように促し、リュウは白王の背に乗るのだった。白王は荒野を飛ぶように跳ね、みるみる走り去っていく。
「先に俺たちがいく。お前たちもなるべく早く来てくれ」
「うん、まったく勝手なんだから」
と言いつつもバギーを走らせるラットたちもリュウの姿を見失わないよう後についていくのだった。

一方のアスカ、雑魚の大半を倒したもののやはりバラム本隊が未だ健在であることから、全滅は時間の問題にも見えた。
ここにきてさしものアスカも敗色を隠せずにいたが、後方の村人のことを想えばもはや引き下がれない。その村人にしてもたとえアスカが踏み止まった隙に逃げおおせたとしてもやがてバラム軍に追い付かれてやられてしまう。
「あたしも、焼きが回ったかな。考えてみれば親父が死んでからなるべく甘やかされるままにならないように、自分に厳しく鍛えたつもりだったけど。やはり女の身じゃここまでか。親父・・・・・」
その時だった。アスカの上空が突然暗くなったと思いきや。次の瞬間、敵の数人を巨大な白馬がまさに踏みつぶしていった。
「まさか、これって・・・・・」
そう、かつて元斗の乱にて見かけた漆黒の馬に乗って現れた無敵の拳士のことをアスカは思い出そうとした。
そしてその白馬の乗り手は、端正な顔立ちの巨漢の男だった。
「あれ、あんたは・・・・・」
「間に合ったな、俺はリュウ。お前を助けに来た」
「リュウ、まさか、あの拳王の・・・・・」
「その呼び方は好かないが、ひとまず下がってくれ、いや白王、アスカを頼む」
そう言うやリュウは白王から降り、代わって白王はアスカの裾を咥えて投げ飛ばすように自分の背に乗せ、男たちとともに後方にさがる。
本隊の大軍を蹴散らすリュウ。やがてバラムと対峙することとなる。彼の贄の星はシンの殉星と対極にある、己の生のため常に人の生贄を求める星でもある。
拳を交わすリュウとバラム。南斗の名を冠するだけあり、肉体の直接の破壊を得意とするだけあり、まず突きを主体とし、その上で五指を握りしめ心臓を握りつぶすのが彼の必殺技である。
自身の胸板を狙うもそれをすんででかわさんとする。しかしもう片方の手でリュウの肩を捕らえ、あわや握りつぶされんとするも、肩の筋肉に力を入れバラムの片手を封じ込める。
「誰かを守らんとする彼女の心、俺もまた彼女を守る。ひいてはその仲間、そして村の人たちを守ることになる。そしてそのために、お前を、倒す」
リュウの信念の拳がバラムを捕らえる。そして奥義“北斗十字斬”が炸裂する。
「な、何故だ、生きるために裏南斗に手を染め、他人の命を吸い取ることで生き永らえたはずなのに、何故、この俺が滅びねばならぬ」
「お前に刻んだブラッディ・クロス。元来歴代の殉星の拳士は、人々を守るために己の身を十字に見立て、血まみれのその身体を刻み込んだ。己のためにしか生きられぬお前もまた、その血の十字を受けるがいい」
そしてバラムの肉体は十字に引き裂かれここに贄の星は滅んだのだ。

リュウの闘いをただ見るだけしかなかったアスカは、彼の身にラオウ、そしてケンシロウの姿を垣間見、自身の無力さとともに彼の強さを感じ入っていた。
そのリュウもアスカのもとに近付き、白王は自身の背を傾け、アスカを下ろさんとし、アスカはリュウの腕に身をあずけることとなった。
「バラムを倒すためここまでやってきて、お前と出会えたのは運命かもしれないな。そうだ、お前は、俺のユリアだ」
あっけにとられつつもアスカはリュウの言葉の意味を理解した、ユリアという女性はかつてのケンシロウの婚約者で、かのラオウも彼女を求めんとした、ちなみにリュウの母親のことも人づてに聞いていたのだった。
そんなアスカも、深く静かに頷きつつ、リュウの腕から降ろされる。そしておそらく自らの力を振り絞り、拳をリュウの腹にたたきつけ、静かに告げるのだった。
「今のあたしは、あなたに応えることはできない。でもいつかはユリアさん、レイナさんみたいな、強く優しい女になってみせるわ」
そんなリュウも「ああ」と応え、男たちに彼女を委ねる。すでにラットたちも遅れてやってきて、ことの顛末を見守っていたのだ。
アスカたちの見送りで村を後にしたリュウたち。しばらく白王に身を委ねていたが、数頭の馬たちが両脇を走っていくのを見計らい。ラットのバギーに飛び乗り、
「しばらくは、お別れだな」と白王ともいったん離れていく。こうしてリュウたちのあてどもない旅はまだ続くのだった。