日本の私立探偵ユウキとその助手アイ。数多くのシークレットサービス機関の下で数多くの事件に対処してきた。今回その実績により、尊敬するエージェント、セスを介し、ギリシャの正教会の招請を受けた。
　ユウキとアイはトルコのイスタンブールにいた。
「しかし今度の仕事は結構面倒なヤマっぽいな。あのセスさんからの依頼というからある程度はハラをくくったつもりなんだけどよ」
「そう、いつも通りのノリで行けばいいよ、それより待ち合わせの時間まで何か食べに行こうよ」
「しょうがねえな」
　とまあ、見た目任務そっちのけで観光にしゃれこんでいるように見えた。そしてその待ち合わせの時間に、一人の黒ローブの壮年の男が近づいてきた。
「来られましたか、ちょうどよろしゅうございましたな」
「あんたかい、お招きに上がったのは」
「いえ、わたくしは枢機卿の使者として遣わされた司教にございます。これからお二人を本部へとお招きいたします」
　ユウキの問いに司教は静かに応え、二人を近くの車へと導く。
　車はイスタンブール郊外へと進み、やがてこじんまりとした教会にたどり着く。
　司教は門の神父に語りかけてから、二人の方に戻り、
「どうぞ、お入りください」
　と、導かれるままに、二人は教会の中に入る。

　そのころ、教会内の地下礼拝室ではとある儀式が行われていた。
「それでは、ノエル＝アンドラス修道士、貴君をアデス対策の特務としてニホンに派遣する」
「はい猊下。正教会の特務に恥じぬよう、精励したく思います」
　跪く少年は静かに応え、任じた壮年の枢機卿は軽い笑みを浮かべる。
「しかしノエルよ、わたしも枢機卿として君を任命したが、如何せん君はまだ１３歳だ。理力はともかく闘技には少し心配があるのだが」
「叔父上のご心配は痛み入りますが、僕も己の全力をわきまえているつもりですし、いざとなれば他の闘士の方々の助けにとなれば」
「ふむ、わたしもいくらかは心当たりはあるがね。ことにベアール聖女の御孫女と接すれば」
「はい、ミニョン、ニノンのお二人もこの特務に深く関わっておりますね」
「うむ、それとは別に、君の供をする者たちがもうすぐ・・・・・」
　その時、ドアのをノックする音が響く。枢機卿は厳かに呼びかける。
「入り給え！」
　ドアが厳かに開き、そこには司教に連れられたユウキとアイがいた。
「どうも、失礼します、えっと、俺は、こういうもので・・・・・」
　と、司教に名刺を渡し、枢機卿に届けさせる。
「すまぬね、ユウキ殿、こちらの用は済ませたつもりですから、隣で話を伝えましょう」
「はい、どうも」
　と、枢機卿はユウキとアイ、そしてノエルを隣の応接室に招き入れる。ソファーや机は中世アンティーク調で配置は現在に通じているものがある。
「まず要件ですが、あなた方二人には、この子の供をしていただき、こちらが指定する要員と接触していただきたい」
「とすると、先のメフィストフェレス事件及びアデス事件に関わった奴らですかね」
「ええ、そうですが」
　ユウキに続いてアイが枢機卿に問う。
「あと、彼の地の者との関連もあるということですか」
　枢機卿は静かに厳かに頷く。
「詳しい話は後ほど申し上げますが、しばらくはご足労いただきましょう。そしてその後はあなた方の手腕に期待することにいたしましょう」
「はっ、俺たちもご期待に添えるよう頑張りますので。それじゃあ、よろしく頼むな、ノエル」
「はい、こちらこそ」
　と、ユウキとノエルは固い握手を交わす。それを枢機卿は、頼もしそうに見やるのだった。