少年は大樹の前に立っていた。
少年は己の武の大成を求めていた。
「代々受け継いだ古武術の業、俺の武も世に轟けるか、この大木のように」
少年は大樹に触れんとした、しかし。
「待て、この樹に妄りに触れてはならぬ」
背後の一人の乙女が少年を引き止める。
「むう、何者だ」
「ここは神聖なる千年守の樹。お主は野心があるが邪気はない。だがいずれお主が立ち入っていい処ではない」
「・・・・・」
少年は言葉を返そうにも、開きかけた口を閉じた。何故だか彼女の言葉を遮ることはできなかった。
少年はひとまずこの場から去る。しかしいつかはこの地に戻っていくだろうとも思ったりもするのだった。
少年は大樹の前に立っていた。
少年は己の拳を極めんと、修行の旅を続けていた。
「俺の拳はどれだけ強くなれるか、やはり世界に打ってでなければ、しかしその前に」
少年は大樹に拳を重ねんとした、しかし。
「待て小僧、この樹を拳で打つつもりか」
背後の一人の乙女が少年を引き止める。
「むっ、何者だ」
「ここは神聖なる千年守の樹。お主の大望は大いに感じている。だがいずれお主の拳はこの樹に向けるべきではない」
「・・・・・」
少年は言葉を返そうにも、開きかけた口を閉じた。何故だか彼女の言葉を遮ることはできなかった。
少年はひとまずこの場から去る。しかしいつかはこの地に戻っていくだろうとも思ったりもするのだった。
少年は大樹の前に立っていた。
少年は古来より受け継ぐ業を、今まさに試さんとしていた。
「代々受け継いだこの炎、古来より立っているこの大樹でひとまず試してみるか」
少年は己の両手の間に炎を灯し、大樹に向かい構えんとした。
「待て貴様、よもやこの樹を燃やさんとするか」
背後の一人の乙女が少年を引き止める。
「うむ、何者だ」
「ここは神聖なる千年守の樹。お主が大いなる闇を祓う一族は見知っておる。だがいずれお主の炎、この樹に向けるべきではない」
「・・・・・」
少年は言葉を返そうにも、開きかけた口を閉じた。何故だか彼女の言葉を遮ることはできなかった。
少年はひとまずこの場から去る。しかしいつかはこの地に戻っていくだろうとも思ったりもするのだった。
少年は大樹の前に立っていた。
少年はここ最近の胸騒ぎに導かれていた。自らの血がそうさせたのか。
「僕の体の中、血の中に、何かが常に騒いでいる気がする。そうだ、僕は、闘いたい・・・・・」
少年は大樹に近づこうとした、しかし。
「ふむ貴様、何やらただならぬ気を持っているようだな」
背後の一人の乙女が少年を引き止める。
「誰だ・・・・・!?」
「ここは神聖なる千年守の樹。お主は本流ではないが闇の一族と見た。いずれ己が血と闘わん刻が来るだろうが、今はお主がここに立ち入る刻ではない」
「・・・・・」
少年は言葉を返そうにも、開きかけた口を閉じた。何故だか彼女の言葉を遮ることはできなかった。
少年はひとまずこの場から去る。しかしいつかはこの地に戻っていくだろうとも思ったりもするのだった。
そして時は流れ、その大樹の前に、4人の男は立っていた。いずれも己の武はともかく人生をも大成した感があった。
「さてこの樹に立つのも久しぶりかのう」
「その間、わしらもずいぶんといろんなことが起きた」
「大いなる守護のもとこの樹は立っている。我らもその域に到れたかのう」
「それを確かめるべく来たのだ、はたして“彼女”はどう応えるかな」
四人目の男の言の後、お目当ての彼女、朱鷺宮神依が現れた。
「なるほどお主らか、それぞれいい面構えになったものだ」
「まあ多少はね、ミス・カムイ。今後起こりうる事態に関し、ご協力を仰ぎたい。これは聖霊庁を通じての要請だが」
と、4人の代表として隻眼の男が応える。
「なるほど、面倒なことたな」
「まあこういうのはどうでもいいことかもしれぬが、本題はこれだ」
そう言って隻眼の男は傍らの袋から日本酒の一升瓶を取り出す。
「・・・これは・・・・・」
「この場はこちらの方が似合うと思って用意したのだが」
「なんだお主、わしらもほれ、このように用意してきたのに」
と、それぞれ他の男たちもともに一升の酒を取り出した。
「うむ、こういうのもいいかもしれぬが」
神依も得心する。それを男たちの背後で心配そうに見やる人影がいたが。
「まあ、というわけじゃ、ひとまずお主らはむこうで遊んでいるがいい」
「わふ〜」
と、古武術の男が後ろのこのはたちに告げ、このはたちはすごすごと身を退くのだった。
「ここから先は大人の付き合い、お主も見た目以上に齢を重ねておろう」
「・・・うむ・・・・・」
「この場存分に飲んで、浮世の憂さを晴らそうではないか」
「・・・・・」
神依は沈黙したままだが、不快と思ってはいなかった。ただ男たちの押しに少しは戸惑ったが。ともかくも男たちに進められた酒をぐぐっと飲み干す。
「おお、いい飲みっぷりだな」
「まあお主ももっといけるじゃろう、さあもう一杯ぐぐーっと」
こうして神依と男たちの宴は過ぎていく。これから起こりうる面倒な争乱を気にしないでもないのだが、今はこのひとときを楽しもうと思う神依だった。
「やはり、楽しまなければ損ということだな・・・・・」
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