THE KING OF FIGHTERS
アナザーストーリーその5

ビリーチーム
(ビリー=カーン 山崎竜二 ローレンスブラッド)

 ビリー=カーン、炎の用心棒とうたわれるギースの側近である。そのビリーは港埠頭の倉庫にて待ち合わせをしていた。

 数日前、ビリーはギースに呼ばれた。
「ビリーよ、近日KOFが開催する運びとなった」
「はっ、KOFですか。今度はどんな物好きが開催するのか、てところでしょうか」
「うむ、これを見よ」
 ギースから渡された書状をビリーは恭しく受け取る。その書状をビリーは驚愕とともに読み上げる。
「・・・これは、まさか・・・・・・」
「そう、“R”そしてバーンシュタインの紋章だ」
「しかし、ルガールといえば、すでに」
「たしかにルガールはオロチの力によって滅んだと聞く。しかし・・・・・」
「たしか、アーデルハイドとかいう。まあ、あのルガールに子供がいても何ら不思議ではないの、ですが・・・・・」
 そのときビリーは、ギースの表情に何かの感慨を覚える。ギースもまたその感慨に応えるでもなかったが、ある言葉を口にする。
「たしかにな、だがビリーよ、あのアデル、息子であるのは間違いないが、ルガールのこと、何もどこぞの女に産ませた子供というわけでも限らぬぞ」
 ビリーもはっと得心する。
「・・・なるほど、まあアデルの件は分かりました。しかしもう一つ・・・・・」
「アッシュ=クリムゾン、それに彼の地の者とやらか」
「はっ」
 ビリーの恭しい一礼に、ギースは背を向けつつ椅子から立ち上がり、窓越しのアップタウンを眺め見る。
「いずれにせよ不安要素ならば早々に摘み取らねばならぬ。しかしそれらをお前一人であたることもなかろうて」
「はあ」
 ギースは再び椅子に深々と腰を下ろす。
「さしあたりKOFの件はお前に一任する。参加してかき回すもよし、裏から手を回すもよし、好きにするがいい」
「はっ・・・・・」
 さらに深々と一礼し、間を置きつつビリーはゆっくりと退室していく。残されたギースは足をデスクにかけ天井を見上げる。
「KOF、アーデルハイド、か。子供すら利用するとは、いかにも貴様らしいな、ルガールよ」

 一方、退ったビリーも先の大会直後に思いを致していた。その時ビリーはとある男の襲撃を受けていた。凶乱の喧嘩士、山崎竜二である。
「ヤマザキじゃねえか、まさかこの時を待っていやがったか」
 言葉とともにビリーは山崎の蛇遣いをかわし続ける。
「へへへへへ、血が騒いでよお、仕方がねえんだよおぉ」
 山崎の猛攻に対して一旦ビリーも一歩退がり体制を立て直す。
「まったく、てめえはいつも面倒事ばかりおこしやがって、ここらでシメておくか」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねえ、いくぜえ!」
 山崎も一旦腕を垂らして構えの体制を取る。
「そう慌てんなよ、慌てる何とかはもらいが少ねえってな」
 そしてお互いに飛びかかろうとしたその時、一輪の薔薇が二人の間の地面に突き刺さる。
「な、何だア」
「何、お、お前は」
 二人が見やった先には、端整な口髭と長身の闘牛士風の男が立っていた。鮮血の闘牛士、ローレンスブラッドだった。
「ことの次第はすべて見させてもらったよ。私闘とはいえ、このような不粋、捨て置くわけにはいかなくてね」
 多少なりのローレンスの殺気に気づいたか、ビリーも山崎も心なしか一歩引いてしまう。
「ヘッ、余計なことを。とはいえ、ここは都合がいいかもしれねえな」
「・・・チッ、くだらねえ」
 と、もの惜しげにまず山崎が去っていく。ビリーも警戒を少し解き、ローレンスに一歩近づく。
「この場は礼を言うべきだろうな。だがあえて聞くが、一体何の用だ」
「わたしも多少は暇をもてあましてね、力を誇示する機会を欲しかったのだよ」
「なるほどな、悪いがその機会は今逸しまったがよ、これからのことを考えれば、やむを得ねえか」
「まあ、そういうことだがね」
 と、ローレンスはゆっくりとサーベルを抜く。同じくビリーもゆっくりと棒を構える。
「いずれ時がくればだな、その時はお楽しみはたくさんってことだな」
 ローレンスのサーベルとビリーの棒が交わされる。これでひとまずの共闘の誓約となった。
「それでは、次の大会まで、アディオス」
 サーベルを引き、ローレンスも去っていく。
「ひとまずはよしってところか。とにかくギース様に報告だな」
 と、ビリーもひとまずこの場から去る。

 あの時からどれだけ経ったか、回想から覚めたビリーは、近付いてくる二つの気配に気付く。
「ようやくおいでなすったか」とビリーが呼びかける。
「来てやったぜ、へへへ」と不敵で陰惨な笑みをうかべる男が、
「時、ここに到れり、ということかな」と闘牛士風の男がそれぞれ応える。
「それじゃ、始めようか」
 ビリーの言葉にそれぞれ構えの体勢を取る。

炎の用心棒、ビリー=カーン
凶乱の喧嘩士、山崎竜二
鮮血の闘牛士、ローレンスブラッド

 3人の危険な男たちの闘いは、再び始まる。

ネスツチーム
(イグニス ゼロ アンヘル)

『・・・あれ、ここ、どこだろう。あたし、泣いてるの、って、あたし、赤ちゃん・・・・・?』
 その赤ちゃんのいる部屋から、何故か火の手が上がる。
『え、何、何で火事なの、ヤバいじゃん、これじゃ逃げられないよ、誰か、助けてよ・・・・・』
 その時、一人の男の子が炎の中から飛び込んできて、その赤ちゃんを助け上げる。
「よかった、無事だった、アンヘル、早くミスティの所へ行こう」
『ミスティ、お姉ちゃん、って、ということは、この子は、ラ・・・・・』
 しかし突然、炎の塊が二人に降り注いでくる。
「・・・・・!」

 気が付けばそこは寝室の寝床の上、そう、自分は夢を見ていたのだ。
「何で、あんな夢を見たんだろう、そうか、あの時、赤ちゃんだったあたしを助けたのは・・・・・」
 いつの間にアンヘルの目には涙が流れていた。
「あいつ、だったんだ・・・・・」

 とある地下施設、そこでは二人の男が闘っていた。一人は黒いコートに付いた数枚の刃を駆使し、もう一人は装着した数本の鞭を駆使して闘っていた。
 勝負は一進一退、お互いの武器と武器、業と業のぶつかりあいが続いていた。
 そのうち、互いに動きを止め、一人が口を開く。
「かれこれ、30分ってところか」
「確かに、今のところはこれで十分だな」
「ここは俺たちの闘いだった。それ以外だったらもっと早く済ませていた。もっとも、「奴ら」相手だったら簡単にはいかないがな」
 そんな二人にアンヘルが近付いてきた。そう、男たちはかつてのネスツ作戦指揮ユニット、ゼロと総指揮ユニット、イグニスであった。
「二人とも元気してた」

「ふん、アンヘルか。そういえばあいつはどうしている」
 イグニスが問う。
「まだまだ調整中。確かに彼が一番ゼロドライブに依存してたからね」
「なるほどな、しかしながら俺の再生処理を含めて、あいつの調整と、今更だがご苦労だったな、アンヘル」
「どういたしまして」
 そう、特にイグニスは先の暴走で身体の半分を失い、再生処理の結果20代半ばの肉体から10代半ばへと姿を変えたのだ。あと本人の強い希望によりゼロドライブに頼らないようにと自分の武器を改造した。それは先の戦いで外傷が少ないために以前と変わらないゼロも同様だった。
「それはそうと、あいつが出られない今となっては、やはりお前を頼らねばならないな」
「それはいいけど、やはりあたしでいいの、ゼロ」
「かまわない、今ミスティは龍(ロン)とともにいろいろと動いていることだからな。今はお前の力はともかく情報処理の能力が必要だ。これからの情報の推移が見たいからな。またお前自身、ケリをつけたい者がいるだろう」
 イグニスの応えは穏やかだが、それを受けるアンヘルの心は重い。
「ええ、なるべくあなたたちの足は引っ張らないつもりよ」
 それと同じく、アンヘルは1通の封書を見せる。封にはRの紋が押されていた。
「ふん、奴め、ご丁寧に招待状までよこしたか」
「まあ、大会まではまだ時間があるがな、それまでゆっくりと羽を伸ばすとしよう。お前もゆっくりと休んでくれ、アンヘル」
 アンヘルも静かにうなずき、部屋を後にする。残された2人はそれぞれに闘志を燃やしつつ静かにたたずむ。
「確かに、俺のドナーとしてのお前は認めよう、それゆえに俺は、お前に勝たなければならぬ。それが俺の、存在する意義につながるのだからな、クリザリッド・・・・・」と、ゼロが、
「やはり俺の存在意義は、お前の影を断ち切ることにあった。ならばここではっきりとさせよう。貴様のクローンどもを倒し、この俺が真に存在しうるのだ、ルガールよ」と、イグニスが、
 そしてアンヘルもまた、
「今、こうしてあたしが生きていられるのは、あなたのおかげ、だからこそ、あなたと決着をつける。過去の自分を受け入れるため、今の自分を乗り越えるため。そうでしょ、ラモン・・・・・」
 それぞれの思いを込め、自分たちの運命に立ち向かうのだった。


ちなみに、チームの(本サイト上での)プロフィールは

イグニス
声:浪川大輔
格闘スタイル:イーリスランス・ガーリアンソード
(体に装着された鞭状の武器を巧みに操る)
年齢:不明(外見的には10代半ば)
趣味:天体観測
得意スポーツ:スポーツは苦手
好きな食べ物:機能性食品(意外と小食)
大切なもの:自分のプライド
嫌いなもの:特にないがやはりRの人とそのクローン

ゼロ
声:松田佑貴
格闘スタイル:ブレイドスーツ、ある程度の重力制御
年齢:不明(外見的には30代前半)
趣味:戦闘データ分析
得意スポーツ:水泳
好きな食べ物:肉類と果物類
大切なもの:ある意味自分自身
嫌いなもの:特にないがやはり自分のドナー(遺伝子提供者)

アンヘル
声:新谷真弓
格闘スタイル:キャットファイト
年齢:19歳
趣味:機械いじり
得意スポーツ:サッカー(キーパー)
好きな食べ物:テキーラとサボテン刺し
大切なもの:服のコレクション
嫌いなもの:特にないといっているがやっぱりウィップ(セーラ)が嫌い

オロチチーム
(七枷社 シェルミー ゲーニッツ)

闇の中、男は立っていた。そこがどこであるか、今は夜なのか、それともただの暗がりなのか、そんなことはどうでもよかった。
とにかくその男に一人の女が近付いてきた。
「はい、お元気してた?」
 その女の表情は前髪が両目を覆って、いまいち掴み取れない、だがその呼びかけは明らかにお気楽なものであった。それに対し男は不機嫌そうに応える。
「お元気じゃねえよ、さっき目覚めたばかりで頭がクラクラ、おまけに記憶もだぶついているぜ」
「あら、あたしはそんなに気にならないけど」
気を取り直し、社は改めてたずねる。
「ま、完全じゃねえけど、いつもの調子が戻ったのはいいよな、で、クリスはどうした」
「それがね、どうやら変な連中にさらわれちゃったの」
「クリスが、一体どういうことなんだ」
「さあ、“彼女”から聞いた話だと、どうやら『遥けし彼の地から出ずるものたち』って名乗っていると聞いてたわ」
「『彼の地のもの』? また面倒な奴らが現れたもんだぜ」
「あとそれについても“彼”が話がしたいっていうから、ついてきて」
「ああ、“あいつ”まだ生きてたか」
 と、社とシェルミーはこの場から去る。

二人が向かった先、ここは洞窟の氷室だった。その奥の巨大な氷柱に一人の男が封じられていた。その男、かつて“吹きすさぶ風”とうたわれたゲーニッツが二人に語りかける。
「ああ、あなたたちですか、せっかく気持よく眠っていたのに、一体何の用ですか」
「あんたの力が借りたい」
「やはりこう来ましたか、今更ながらわたしも群れるのは嫌いなものですが、致し方ないでしょう。すでにマチュア、バイスは動いてまた八神に近付こうとしていますから」
「まあ、あの二人も大変ね。で、あなたのことだから多少の事情は把握しているでしょう」
 ここで今までゲーニッツはどうなったかというと、先の大会(KOF96)で敗北し、自ら命を断とうとしたが、何者かに助け出され、洞窟の氷室にて封印され傷を癒していたのだ。さておき、ゲーニッツもある程度の事情を察していたのは述べるまでもないだろうが。
「ええ、しかしあの方々も無益なことを。一度この天地より捨てられしものを再び世に出でんとするなどと」
「ま、さらには神楽も目覚めるってことだ。しかもあんたがやったマキの力を完全に受け継いだって話だぜ」
「そうですか、確かに厄介なことになりましたが、同じく活動を再開せんとするネスツのみなさん同様、そうそう案ずるには及ばないでしょう。我らは一つずつ対すればいいだけのことですから」
「それもそうだな」
 すべてを理解したかのごとく社はこの場を去ろうとする。
「さて、あんたの傷ももうすぐ癒えるだろうからな。それまで俺たちものんびりとさせてもらうさ。それくらいの時間はあるだろうからな」
「なら、私もそうさせてもらうわ。ふふ、これから楽しくなりそうね」
 そんな二人を、ゲーニッツは微笑みながら見送るかに見えた。

そしてややあって、砕かれた氷柱とともに、ゲーニッツの姿は見えなくなった。

八神チーム
(八神庵 マチュア バイス)

 八神庵、もともとは大地の意思オロチの蹂躙を抑え封印した神器の一族の一門、八坂瓊一族の末裔だが、660年前の争乱においてオロチに連なるものとの血の交わりによって、以来神器の一族でありながら草薙、後に神楽と名乗る八咫と対立することとなり、特に庵は草薙京を執拗に付け狙うようになった。自らの意思と言いながら、結局は己の血に苛まれながら。
 それが先の大会においてアッシュ=クリムゾンの暗躍によって自らの八坂瓊の力を失う。

 そして今、庵は僅かに残った自我を頼りにあてどもなくさまよっていた。
 そんなある日・・・・・、

「ようやく見つけたわ」
「今は大人しくしているようだね」

 とある廃ビルの中でたたずんでいる庵のもと、セミロングの髪を束ねたブロンドの女と短めの髪を整えたブルネットの女が近付いて来た。
「・・・お前らは・・・・・」
 力なく庵は問う。
「やはり、覚えていてくれたのね」
 ブロンドの女、マチュアが応える。
「・・・本物、だろうな・・・・・」
「まるで幻を見たような物言いだな、こっちもあんたに会いたかったんだよ。この手で絞め殺したいほどにね」
「・・・・・」
 ブルネットの女、バイスの言葉をさえぎるでもなく、庵はただ聞き入るのみであったが、数刻の間を置き、重い口を開く。
「・・・一体、何の用だ・・・・・」
「私たちに、力を貸してほしいの」
 と、マチュアは胸ポケットから黒い物体を取り出し軽く放り投げる。庵はそれを片手でつかみ取る。
「・・・何だ、これは・・・・・」
 訝りつつも庵はそれについての見覚えを確かにする。それは八神家、八坂瓊一族に受け継がれた魔封じの勾玉のペンダントだった。
「どこでこれを?」

「どこぞで奪ってきた、かとあんたならそう思うだろうねえ。何せこいつの持ち主は・・・・・」
「およしなさいバイス、これはあれと寸分違わぬレプリカなのよ、庵」
 と、バイスをたしなめつつマチュアは勾玉の経緯を語る。
「・・・というわけで、そこから精製した原石から寸分たがわぬ勾玉を造り出したのよ。確かに今のあなたではもう一つの力を頼らなければならない。でもそれではいつ暴走するか分からない。だからこそそれを抑えるためにこれが必要なのよ」
「・・・要するに、お前らと組めというのか、いいだろう・・・・・」
 庵はその勾玉を握りしめつつ懐にしまう。
「だが、忘れるな、奴との決着をつけたら、貴様らをどうしようが、俺の勝手だ・・・・・」
「そうね、楽しみにしているよ・・・・・」
 と言って、マチュアとバイスは姿を消す。残された庵は忌々しげに満月を見上げる。

「・・・勾玉か、やはりお前も、来るのか、お前まで、俺を煩わせるのか・・・・・」
 月は何も応えない。ただ静寂のみが庵を包み込んでいる。