THE KING OF FIGHTERS
アナザーストーリーその4

柴舟チーム
(草薙柴舟 矢吹真吾 李香緋)

 その日も草薙家を2人の少女が訪れた。
 1人は草薙京の彼女のユキ、もう1人はその後輩でコスプレが趣味の少女で、通り名が『コスプレイヤー京子』というので、ひとまず彼女のことを『京子』と呼ぶことにする。
 ともかくその2人が家に入って広間に進むと、何故か京の母、静から日本舞踊を習っている真吾がいた。
「あれ、何やってるの、真吾くん」
「ああ、京子ちゃん、それにユキさんも」
「あら、いらっしゃいお二人とも」
 練習をひとまず切り上げ、ユキたちを迎えるのだった。
 実は真吾の修行を見ていた静がその体のぎこちなさから、その体の流れのために日舞を習わせたのだ。まあそれはともかく。
 そもそも真吾が先の大会で京とはぐれて途方に暮れたところ、柴舟に誘われて以後、草薙家で修行と雑用に明け暮れる日々を過ごしていたのだった。
 それと合わせてユキたちも家事手伝いのために時折訪れていたのだ。

 その日の夕方、静や真吾たち4人で夕食をとることになった。あとちづるを見舞いに行った柴舟は予定より遅れているので後回しにして団らんを楽しんだ。

 さてその柴舟が帰ってきたのは真吾も帰っていった真夜中の頃だった。
「ただいま」
「お帰りなさい、あなた」
 悪びれない柴舟に静はそっけなく応える。
「それにしても、随分かかりましたね」
 この言は心配がこもる。静としてもちづるが気がかりなのだ。
「いやな、ちづるちゃんだけでなく、庵の妹御のところも訪ねたのだ」
「ああ、そうだったんですか」
 静の言はさして意外そうな口調でもなかった。
「ところで母さん、わしのメシは」
「テーブルに置いていますわ。チンして温めて下さいな」
「チンったって、お前・・・・・」
 テーブルには布巾で覆われていた夕食が置かれていた。柴舟は肩を落としてそれを見やる。そんな柴舟に静は思い出したように告げる。
「それから明日、横浜でハイデルンさんがお話がしたいといってましたよ。それにちょうど日曜ですから真吾くんも連れていった方がよろしくって」
「うむ、そうか、ハイデルン殿が」
 確かに柴舟にとっては懐かしい名前だった。

 その次の日、柴舟は真吾を連れて横浜の中華料理店を訪れる。そこにはハイデルンが待ち構えていた。
「うむ、久しいな、ハイデルン殿」
「ミスター柴舟もお変わりないようだ」
「用というのはやはり大会のことかな」
「左様・・・・・」
 と、ハイデルンはこれまでのいきさつと次回の大会においての調査と対応を依頼する。
「まあそういうことならば、この柴舟も協力させてもらう。ところで協力といえばハイデルン殿がチームを組んでいただけるのかな」
「いや、わたしは本隊を直接指揮をする立場でね・・・・・。それに、熟練者が2人もいては君もいろいろやりにくかろう、矢吹」
「・・・あ、はい・・・・・」
 柴舟から真吾へと視線を移しつつハイデルンが応え、それと同じく一人のウェイトレス風の少女が入ってきた。
「あれ、君は・・・・・」
 確かに真吾にも顔なじみの少女だった。そう、かつて大会にも出場した李香緋だった。
「あら、久しぶりね、真吾くん」
 そんな2人の様子を見やり、ハイデルンも、
「どうかな、柴舟どの、メンバーが決まっていないならば彼女を入れてみては。確かに頼りないところもあるが、大局的に見れば、ということかな」
「うむ、わしも異存はない。というわけだが、お主はどうかな、香緋ちゃん」
「あ、えーと、あたしはかまわないけど」
「よし、決まりじゃな」
 と、香緋をメンバーに加えることになり、改めて柴舟はハイデルンに向き直る。
「まあ我らに関してはこれでよいがの、おおそういえば、これを忘れていたわい」
 柴舟は懐から勾玉のペンダントを取り出す。
「・・・これは」
「これをレオナさんに渡して下され。彼女の血のしがらみをいくらか和らげてくれよう」
 と、柴舟はハイデルンにそのペンダントを渡す。
「・・・かたじけない、しかし何故これを?」
「実はの、ちづるちゃんを見舞った際に庵の妹御の所にも立ち寄ったのじゃ。本人は直接渡したがっていたが、別のおつとめがあってままならなんだからのう」
「うむ、しかし貴重なものではないのかね、彼女にとっては」
「あの子本来が持っている本物と寸分たがわぬレプリカだそうだ。同じ原石から造って念と気を送り、本物と同じ効力を持つという」
「そうか、ならばありがたく使わせてもらう」
「うむ、それではお互い、成功を祈りますぞ」
 と、柴舟とハイデルンは握手を交わす。その後でハイデルンは席を外す。

「結構、大変なんですね」
 後に残された3人、そんな中真吾がしみじみと述べる。
「ことは世界の存亡がかかっておるからのう。しかも4件分もな」
「まあこういうのは一つずつ解決すればいいんじゃない。まあ仕合は別としていざとなればテリーや京さんと力を合わせたら」
「それもそうだねえ」
 香緋と真吾の言を聞き入った後で、柴舟は口を開く。
「ともかく、わしらの目的は京たちの手助けはともかく、アッシュとやらに草薙の力を渡さぬため、そしてわしら自身の名誉のために来る大会に参加しなければならぬ。もっともメンバーについては意外に早く決まったがの」
「へへっ、どうも」
 その言に香緋は照れくさそうに応え、それに真吾も乾いた笑いを発する。
「まあそうと決まった以上、明日からはわしも修行に付き合うぞ。わしとて草薙の士の一人。まだまだ若い者に後れをとることはできぬからの」
「あ、はい」
 真吾も香緋もその言葉に半ば圧されつつも相槌を打つ。まあそんなこんなで草薙柴舟率いるチームが結成された。

 一方その頃、京が家から帰ってきて、静に説教を受けていた。

ベアチーム
(ビッグベア 千堂つぐみ メイ・リー)

 メイ・リーは今、大阪のとある体育館にいた。先日送られた手紙に誘われ、この地におもむいたからである。
 薄暗い館内、人気のない中、奥へと進むと突然男の声が響く。
「よく来たな、さて、そのまま真ん中のリングにあがってもらおうか」
 明らかに聞き覚えのある声、それは彼女の師の良きライバルともいえる男の声であった。
 言われるままに中央リングにあがると、ちょうど頭上にスボットライトがともる。
「よく来たなメイ・リー、お前さんのことはキムさんがよく自慢していたぜ」

 メイも確信をもって応える。
「これはやっぱり腕試しってところですね。それだったら、気を引き締めないとね」
「よーし、その意気だぜ、まあ闘うのは俺じゃねえんだがな」
 その時、反対側コーナーからもう一人の少女が出てきた。
「えっ、つぐみちゃん」
 出てきたのは誰あろう、今や女子プロレス期待の星である千堂つぐみである。メイとつぐみとは互いの師匠同士の仲もあって親友ともいえる間柄だったのだ。
「やあメイちゃんお久しぶり、積もる話もあるけど、まずはひと勝負といこか」
 つぐみが言うや会場のライトがすべてともり、そこにはいつの間にか観客があふれかえっていた。ちょうど実況席にはビッグベアが座していてた。
「よーし、準備が整ったところでさっそく仕合開始だ」
 ベアが勢いよく席の前に置かれたゴングを鳴らす。こうしてつぐみとメイの30分1本勝負が始まった。
 まずつぐみが技を仕掛けると、とっさにメイが巧みに外し、かたやメイが蹴りを放つと、つぐみが当たる寸前にさばき切る。こうして大技小技が入り乱れ、仕合は一進一退のシーソーゲームと相成った。
 やがて仕合時間の30分が近づき、双方疲労の色が出始めた。数瞬のにらみ合いの末、つぐみもメイも一気に組み合った。こうなってしまえばもはや力比べ、ということになるだろうが、その組み合いというものはただ押せばいいというものではなく、押す力、支える力の力加減がものをいう。そうなればやはり両者相譲らずの状態が続いてしまう。
 こうして30分が過ぎ、2人の仕合をやはり見守っていたベアも、時間を見計らって厳かにゴングを打ち鳴らす。無情のゴング、というわけではなく、つぐみとメイにとってはそのゴングに救われた感もあり、お互い腕を放し、倒れるように座り込む。
「・・・こ、こんな疲れた仕合は久しぶりやわ。ほんと、ボスの稽古よりしんどかったわ・・・・・」
「・・・で、でもこれなら闘い抜いた気もするな・・・・・」
「・・・でもまあ、結構地味な闘いやったからなあ。お客さんみんな黙り込んどるわあ・・・・・」
「いやいや、なかなかの仕合だったぜ。みんな固唾を飲みっぱなしで歓声どころじゃなかったんだ」
 と、ベアがリングに上がりこんだ。息も整い、ようやく2人とも観客を見渡した。その観客はほとんど仕合の興奮に酔いしれて上気していた。中にはちらほらとつぐみやメイのコールをする者もあらわれ、それがだんだんと大きくなっていくのが分かる。
 やがてベアがリング中央に立ち、つぐみとメイの2人に手を差し出す。2人はその手にお互いの手を差し出す。ベアはその手をつかんでゆっくりを掲げる、2人が立ちあがり、掲げれた手を握り締めると、ひときわ大きな歓声が会場を埋め尽くす。その歓声を3人ともしばらく聞き入っていた。

 ややあって、その歓声もひと段落し会場も落ち着きを取り戻したかに見えた時、
「さて、本題に入ろうか」
 と、ベアは神妙な表情で告げる。
「このエキシビションマッチで2人の強さはみんな分かってくれたと思う。まあそれを踏まえて、次回開催されるだろうKOFにおいて、このビッグベアはこの2人、つぐみとメイとで大会にエントリーしたいと思う」
「・・・うん」
 そのベアの宣言に特につぐみとメイの2人が重くうなづく。そういえば、先日キム家周辺を欧米人らしき男が何やら調査をしていたなとメイは思う。おそらくはかつて対した傭兵チームと関係あるかもしれないが、今はとやかく聞くこともないだろう。
「まあやるからには当然優勝を目指すつもりだ、しかしお楽しみはこれだけじゃないってのはまあ言うまでもないだろう」
「・・・そやねボス、まあ、どんなハプニングも今ならドンとこいやで」
「そうですね、でもまずは大会に向けて調整をしなければいけないですね」
「そうだな、まあこいつは各自のトレーニングに合わせてやればいいさ。ともかく、みんな大会でまた会おうぜ!」
「おーっ!」
 ベアの言葉に合わせ、2人もそれに応える。そしてそれに再び大きな歓声も上がる。

 こうして、ビッグベア率いるチームもまた、次回のKOFに参加する運びとなった。

アメリカンスポーツチーム
(ヘビィD! ラッキー=グローバー ブライアン=バトラー)

 デンバーの山中、そこでは三人の屈強な男たちがスパーリングを行っていた。
「ふんっ・・・・・!」
 ボクサー風の男が軽快なフットワークでジャブを繰り出し、長身の男がリズミカルにそれをかわす。
「ほっ、はっ・・・・・!」
 続いてボクサーに代わり大男が割って入る。長身の男が流れるように蹴りを繰り出すと、その大男がその体躯を活かしガードする。
「うりゃぁぁぁぁっ!」
 そして大男の渾身のタックルを他の二人が全身で受け止める。そして特訓の成果を確め合い、親指を立てて満面の笑みを浮かべる。
 彼らこそアメリカが誇るスポーツ格闘家、ベビィD!、ラッキー=グローバー、そしてブライアン=バトラーだったのだ。
 今まで彼らはどうしていたかといえば、かつての大会でそこそこの実力で勇名をはせてはいたのだが、何者かの横やりによってここ数年出番が出ずじまいで、悶々とした毎日を送ったはずだった。それをここデンバーでトレーニングに打ち込んでいたのだ。
「ほう、精が出ているな」
 そんな3人にハイデルンが音もなく現れた。
「やっとおいでなすったか、ハイデルンの旦那」
 実はその悶々としていた3人を見かね、ハイデルンがいろいろトレーニングに便宜を図っていたのだ。
「今更聞くまでもないが、何の用だ」
「うむ、近々開催されるKOFに諸君にも参加してもらう」
 3人もハイデルンの言葉を待っていたかのごとくだった。
「ようやくか、腕が鳴るぜ」
「この日のためにトレーニングしてきたからな」
「しかし、今一つ俺たちに求めるものがあるだろう。特に注意すべき相手ってのは何だ、そいつが今回の黒幕と言うじゃないか」
「本来君たちには大会そのものに打ち込んでもらいたいが、致し方がないな。“遥けし彼の地の者”ということだけだ。ここまで聞いた以上、今以上に注意を払ってもらおう」
 言うが早いか、上空からヘリが飛んできて、ハイデルンは下ろされた縄ばしごに捕まりそのまま飛び去っていく。
「それでは、健闘を祈る」
 と、ハイデルンを見送った後で3人は感慨を込めて語り出す。
「つまりは、先のルガールやオロチ、ネスツって奴以上のバケモノだってことか」
「しかも、聞いた話ではどこからともなく現れて攻めてくるって話だぜ」
「まあ、不意打ちが得意ってことは、そうそう大した奴じゃねえってことだな。実力があるんだったら小細工なんか使わねえはずだからな」
「いずれにせよ、ハイデルンの旦那の言うとおり、くれぐれも油断はするなってことだな、それだけ気をつけりゃあとは今まで通りトレーニングをして大会に備えるってことだ」
「そうだな、まあ念のため、山から下りて今度は平原でトレーニングに打ち込もうぜ。何せ時間はたっぷりあるが、それでも足りないぐらいだからな」
「そうときまれば善は急げだ、さて、降りようぜ」
 と、3人は下山の準備をして山を後にする。しかし3人は知らないが、雪の中に1個の小型機械が埋め込まれて、そこからの通信を傍受している者がいた。
「ふふ、やはり頼もしいな」
 ヘリの座席にて、その男は深々と腰をおろしていた。ヘリはとある基地へと帰還していくのだった。

対極限流チーム
(如月影二 ダックキング アンノウン)

老格闘家チーム
(山田十平衛 タンフールー 李白龍)