その日も草薙家を2人の少女が訪れた。
1人は草薙京の彼女のユキ、もう1人はその後輩でコスプレが趣味の少女で、通り名が『コスプレイヤー京子』というので、ひとまず彼女のことを『京子』と呼ぶことにする。
ともかくその2人が家に入って広間に進むと、何故か京の母、静から日本舞踊を習っている真吾がいた。
「あれ、何やってるの、真吾くん」
「ああ、京子ちゃん、それにユキさんも」
「あら、いらっしゃいお二人とも」
練習をひとまず切り上げ、ユキたちを迎えるのだった。
実は真吾の修行を見ていた静がその体のぎこちなさから、その体の流れのために日舞を習わせたのだ。まあそれはともかく。
そもそも真吾が先の大会で京とはぐれて途方に暮れたところ、柴舟に誘われて以後、草薙家で修行と雑用に明け暮れる日々を過ごしていたのだった。
それと合わせてユキたちも家事手伝いのために時折訪れていたのだ。
その日の夕方、静や真吾たち4人で夕食をとることになった。あとちづるを見舞いに行った柴舟は予定より遅れているので後回しにして団らんを楽しんだ。
さてその柴舟が帰ってきたのは真吾も帰っていった真夜中の頃だった。
「ただいま」
「お帰りなさい、あなた」
悪びれない柴舟に静はそっけなく応える。
「それにしても、随分かかりましたね」
この言は心配がこもる。静としてもちづるが気がかりなのだ。
「いやな、ちづるちゃんだけでなく、庵の妹御のところも訪ねたのだ」
「ああ、そうだったんですか」
静の言はさして意外そうな口調でもなかった。
「ところで母さん、わしのメシは」
「テーブルに置いていますわ。チンして温めて下さいな」
「チンったって、お前・・・・・」
テーブルには布巾で覆われていた夕食が置かれていた。柴舟は肩を落としてそれを見やる。そんな柴舟に静は思い出したように告げる。
「それから明日、横浜でハイデルンさんがお話がしたいといってましたよ。それにちょうど日曜ですから真吾くんも連れていった方がよろしくって」
「うむ、そうか、ハイデルン殿が」
確かに柴舟にとっては懐かしい名前だった。
その次の日、柴舟は真吾を連れて横浜の中華料理店を訪れる。そこにはハイデルンが待ち構えていた。
「うむ、久しいな、ハイデルン殿」
「ミスター柴舟もお変わりないようだ」
「用というのはやはり大会のことかな」
「左様・・・・・」
と、ハイデルンはこれまでのいきさつと次回の大会においての調査と対応を依頼する。
「まあそういうことならば、この柴舟も協力させてもらう。ところで協力といえばハイデルン殿がチームを組んでいただけるのかな」
「いや、わたしは本隊を直接指揮をする立場でね・・・・・。それに、熟練者が2人もいては君もいろいろやりにくかろう、矢吹」
「・・・あ、はい・・・・・」
柴舟から真吾へと視線を移しつつハイデルンが応え、それと同じく一人のウェイトレス風の少女が入ってきた。
「あれ、君は・・・・・」
確かに真吾にも顔なじみの少女だった。そう、かつて大会にも出場した李香緋だった。
「あら、久しぶりね、真吾くん」
そんな2人の様子を見やり、ハイデルンも、
「どうかな、柴舟どの、メンバーが決まっていないならば彼女を入れてみては。確かに頼りないところもあるが、大局的に見れば、ということかな」
「うむ、わしも異存はない。というわけだが、お主はどうかな、香緋ちゃん」
「あ、えーと、あたしはかまわないけど」
「よし、決まりじゃな」
と、香緋をメンバーに加えることになり、改めて柴舟はハイデルンに向き直る。
「まあ我らに関してはこれでよいがの、おおそういえば、これを忘れていたわい」
柴舟は懐から勾玉のペンダントを取り出す。
「・・・これは」
「これをレオナさんに渡して下され。彼女の血のしがらみをいくらか和らげてくれよう」
と、柴舟はハイデルンにそのペンダントを渡す。
「・・・かたじけない、しかし何故これを?」
「実はの、ちづるちゃんを見舞った際に庵の妹御の所にも立ち寄ったのじゃ。本人は直接渡したがっていたが、別のおつとめがあってままならなんだからのう」
「うむ、しかし貴重なものではないのかね、彼女にとっては」
「あの子本来が持っている本物と寸分たがわぬレプリカだそうだ。同じ原石から造って念と気を送り、本物と同じ効力を持つという」
「そうか、ならばありがたく使わせてもらう」
「うむ、それではお互い、成功を祈りますぞ」
と、柴舟とハイデルンは握手を交わす。その後でハイデルンは席を外す。
「結構、大変なんですね」
後に残された3人、そんな中真吾がしみじみと述べる。
「ことは世界の存亡がかかっておるからのう。しかも4件分もな」
「まあこういうのは一つずつ解決すればいいんじゃない。まあ仕合は別としていざとなればテリーや京さんと力を合わせたら」
「それもそうだねえ」
香緋と真吾の言を聞き入った後で、柴舟は口を開く。
「ともかく、わしらの目的は京たちの手助けはともかく、アッシュとやらに草薙の力を渡さぬため、そしてわしら自身の名誉のために来る大会に参加しなければならぬ。もっともメンバーについては意外に早く決まったがの」
「へへっ、どうも」
その言に香緋は照れくさそうに応え、それに真吾も乾いた笑いを発する。
「まあそうと決まった以上、明日からはわしも修行に付き合うぞ。わしとて草薙の士の一人。まだまだ若い者に後れをとることはできぬからの」
「あ、はい」
真吾も香緋もその言葉に半ば圧されつつも相槌を打つ。まあそんなこんなで草薙柴舟率いるチームが結成された。
一方その頃、京が家から帰ってきて、静に説教を受けていた。
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