THE KING OF FIGHTERS
アナザーストーリーその2

怒チーム
(ハイデルン ラルフ クラーク)

ハイデルンの傭兵部隊、基地内の訓練施設にて20代前半を中心に数人の隊員たちがトレーニングにいそしんでいた。
 今回は格闘術の訓練で、ラルフとクラークがその教官にあたっていた。
 まずはラルフの班にて、いくつかのサンドバックが吊されている部屋で、そのど真ん中のサンドバックの脇に、数人の隊員たちを囲みラルフが立っている。
「これからお前らを鍛えるにあたって、軽くレクチャーしてやろう」
 と、脇のサンドバックにギャラクティカファントムを放つ。
 打たれたサンドバックは吊された鎖を引きちぎり前方の壁へと吹き飛び、壁にぶち当たったサンドバックは、拳でうがたれた穴から勢いよく砂を吹き出す。
「これがギャラクティカファントムだ。当てたら爽快、喰らった相手も天国行きだ」

 しかしそんなラルフに隊員の一人が軽く意見を述べる。
「はい、ですが少し出かかりに時間がかかるような・・・・・」
 言い終えぬうちに隊員の顎をラルフの拳がとらえる。動揺する隊員にラルフは不敵に応える。
「こいつはお前がくっちゃべってる間に入れたんだ。もしぶち当たったら今頃天井に宙ぶらりんだったぜ」
 ラルフは拳を外してから力なくよろめく隊員の背を叩きつつ、悪びれない笑顔で告げる。
「こういうもんだ、技を入れるってことは。いかに相手の隙を突く、これが一番肝心だ。まあ俺も結構考えてるってことよ。たがヒヨっ子のお前らはその前に体力造りだ。俺がいいって言うまで各自サンドバックとお遊びだ」
「イエス、サー」
「声が小さい、もう一度!」
「イエス、サー!」
 ラルフの掛け声に隊員たちも力強く応えてから、サンドバックでの乱取りにも熱が入る。

 一方クラークの班は、レスリングの試合を中心にした組み技のレクチャーをとり行っていた。
 まず一人の隊員がクラークに向かう。クラークは的確に相手の関節を決める。

「ぐっ!」と隊員の低いうめきが漏れる。クラークもまた技の手応えを感じたのか、技を外す。
 すかさず隊員も決められた関節を軽くかばいながらその場を離れる。

「次!」と次の隊員に指示を与え、次の隊員がクラークに向かい、やはりクラークは技を決める。
 クラークの指導もなかなかのもので、技をかけられた隊員の中に、実際に関節を外された者はなく、ただ痛みとインパクトを受けたのみであった。
 一通り手合わせを終え、再び隊員たちを整列させる。
「さて、一通りあたったわけだが、要は相手の動きを見切った上で的確に対処するということだ。まあ俺の場合は速すぎたかもしれないが、出来るだけ早い反応を実戦には求められるのだ」
「はっ!」
 クラークの講義に隊員たちの熱も高まる。
「そこで今の感覚を忘れぬうちに、各自2人ずつ組み技の練習を行うこと。痛みをかばってもかまわんが実戦形式であることを忘れるな」
「イエス、サー!」
「あとそれから、技は入れすぎるなよ、それでは、始め!」
 と、隊員たちは組になって取り組みを始める。クラークも時折隊員たちの仕合を見て回り、技を入れすぎた隊員をたしなめつつ適切に指導をする。
 一方のラルフの班も打ち込みをする隊員たちを回っては疲れが見え打ち込みが緩んだ隊員たちの尻をはしょりつつさらなる奮起を促す。

 と、こんなわけで、ラルフ、クラークによる訓練にて一日が過ぎる。

ハイデルンが戻ってきたのはその日の夕暮れ時だった。帰還後ただちにラルフとクラークを呼び今後の作戦会議とあいなった。
「お疲れ様です、教官」
「うむ、ところでそちらの方の首尾はどうか」
「はっ、今のところは順調進んでいます」
「もっとも、あいつらに比べりゃまだまだヒヨっ子ですけどね」
「厳しいな、ラルフ」
「どうも、ところで教官の方はどうですか」
「うむ、一様に協力を約束してくれた。大会では正々堂々とのことだ」
「ま、そいつはいつものことっすけどね。まあ、それよりも、ムチ子はサリ坊(K’)たちと一緒にチームを組むことだろうし」
「それに、レオナは今、ブルーマリーと一緒に今頃はエリザベート=ブラントルジュに接触していることでしょうね」
 2人の軽い言を受け止めつつ、改めてハイデルンは表情を引き締める。
「そして、悪い知らせかは知らぬが・・・・・」
 と、ハイデルンはかねてよりの懸案だったルガールの子供たち―アデルとローズの近況を語る。そして付け加え、その裏面の事情を初めて語るのだった。
「なるほど、来たるべき復活のための代替ボディとして、か」
「確かにアデルはその意思はねえが、妹の方が父親の気質を受け継いじまったってことか」
「そしてアデルのもとを離れた、か。それこそが問題にするべきかもしれませんね」
「やはり、彼の地の奴らが絡んでるって、ことですかねえ」
「確かに、な・・・・・」
 それぞれ意見を述べるラルフとクラークにハイデルンの応えはやはり重い。
「まあしかし、本来の任務だったアデルの坊やの件はともかく、いつのまに彼の地の奴らなんてのも割り込んでくるし、今回はオロチだのネスツだのと懐かしい面々も参加するんだ。さぞや盛大な大会になるでしょうね」
「そのために今まで計画を練ってきた。今回はバラバラに闘ったのでは作戦遂行は難しいからな」
 改めてハイデルンはベレー帽を整え、立ち上がりつつ2人に指令する。
「というわけで、現在進行中のバーンシュタイン残党の調査に合わせ、その周辺の不穏要素の調査及び対処を行う、構成は我ら3人だ、何か質問は」
 少しの沈黙ののち、ハイデルンは続ける。
「それでは作戦開始まで待機すること、それでは、散会」
 軽い敬礼とともに2人は会議室を後にする。残されたハイデルンはゆっくりと腰を下ろし軽く机上に肘を落とす。
「確かに面白いことになる、か。わたしも愉しまないと損になるな・・・・・」
 来たるべき闘い、それに対して心の高揚を感じる自分、そしてそれを今こそ受け入れられることを確信するハイデルンであった。

サイコソルジャーチーム
(麻宮アテナ 椎拳崇 鎮元斉)

中国の山奥において麻宮アテナをはじめとする少年少女たちは日夜拳法と超能力の修行にいそしんでいた。来たるべき時から人々を救うために。
 それと合わせ、ルガール、オロチ一族、ネスツとあまたの悪と闘った彼ら、そして今彼の地の者、そしてアッシュという者の暗躍もありこれからの闘いが熾烈を極めるということはだれしもが感じられずにはいられなかった。

そんなある夜、寝床のアテナは目が覚め、あてどもなく外へ出ていく。その時に鎮も気づいていたが、前にもこのようなことがあったなと思いそんなに気にしてはいなくそのまま寝入ってしまう。
 外は満天の夜空が広がっていて、高台の中心に立ったアテナはそこでようやく我に返ったかのように大きく深呼吸をする。その時にふと、誰かが呼んでいるような感覚を確かなものにする。
「・・・はい、私は、ここにいます・・・・・」
 誰かに語りかけるようにアテナは呟く。改めて目を閉じて精神を集中させる。
「・・・はい、でも、直に伝えてくるなんて、やはり珍しいですね・・・・・」
 どうやら誰かがテレパシー通信を試みているようだ。
「すると、次は彼の地の人たちだけではなく・・・・・」
 とまあ、アテナのほうは専ら受け手に終始しているようだ。
「・・・分かりました、それでは私たちの方も力を尽くしていきます・・・・・」
 と、そのテレパシー通信は途切れ、アテナも軽い緊張から解放され、大きく息を吐く。
「やはり、大変なことになりそうね、とりあえずは戻らなきゃ」
 と、道場へと戻っていく。

そして夜が明けた次の日。いつものように修行をしていると、表からバイクのエンジン音が響いてくる。何事かと表に出てみると、欧米人の男がいるではないか。
「あなたは・・・・・?」
「麻宮アテナ様ですね、ハイデルン司令からの親書です。お納めください」
 と、アテナに親書の封筒を手渡し、敬礼とともに男は去っていく。

 早速アテナはその親書を手に全員に知らせることとなった。
「ハイデルンって、あの傭兵さんの大将さんか」
「ほう、珍しいこともあるもんじゃ、どれとれ」
 と、鎮がのぞきこむ。
「でも師匠、手紙読めるんかいな」
「バカにするでない、儂も伊達に長生きしとらん、って、ほう、日本語じゃのう」

そのハイデルンの親書はこう書かれていた。
『親愛なるサイコソルジャー諸君、今頃は次回の大会に備え、トレーニングにいそしんでいると思う。それに関して今大会においても裏面に不穏なる勢力が暗躍することだろう。それが諸君にとって来るべき事態であるかは当方においても判りかねる。ただ対処せねばならないことには変わりはないはずだ。
 今大会において諸君らの成長を期待するとともに、大会裏面にうごめくものたちの対処についての協力を要請したい。
 なお大会において当方及び当方の関係要員と相対する場合もあるだろうが、そのときは正々堂々と、悔いのない仕合を望むものである』

「正々堂々となあ、大会で対戦するときは容赦せんいうけれど、いざというときは協力頼むとは、結構調子いいなあ」
「でも、今回はすごく大変な大会になりそうよ。それというのも・・・・・」
 と、アテナは昨夜のことを踏まえ大会裏面の事情を語る。
「何やて、今回はオロチやネスツの連中も来るいうんか」
「ええ、アッシュさんやアデルさんやらと関係してのことなんだけど。今まではハイデルンさんたちで何とかしてみたようだけど、今回ばかりはそうも言ってられないってことかしらね」
「まあ今更ってことなんやけどなあ、ま、俺らは俺らなりに何とか頑張っていくしかないけど」
「うむ、それなんじゃがなあ・・・・・」
 何かを思い出したかのごとく鎮は口を開く。
「まあくどいようじゃが、我らがこうして修行を繰り返しているのは、世にもたらされる来たるべき時に備えて人々を救うためのもの。それが上代から綿々と受け継がれてきた我らの使命でもあるのじゃ。
 かつて儂も、ルガールだのオロチだのはまあ取って足らぬものと踏んでおったが、今になってそれらが今の事態と浅からぬ関係であると思えてならないのじゃ。もちろんこうやって頼まれたからには儂らも出来る限りの力を尽くさねばならぬ。
 そこでじゃ、今大会においてまずアテナ、拳崇、そして儂の3人で組むこととする」
「まあ、それはそうやけど、それじゃあ包(パオ)と桃子ちゃんはどうするんかいな」
「まあ、誰か一人信用のあるものに預けるのが手なのじゃが」
「信用のある人、って、そんな人、いるのかな」
 と、桃子の問いにアテナが応える。
「それなら大丈夫、ちゃんと信用のある人は心当たりあるから」
「えっ、本当」
「ちょっと待ってて、今手紙を書くから。それを届けてほしいの」
 と、アテナは自室へと入っていく。

 こんなわけで、鎮一門、まずはアテナ、拳崇、鎮の3人で大会に出場することとなる。そして残りの包と桃子はアテナから渡された親書をもって一路日本へと向かうのだった。しかし包にはその日本に赴くに当たり、一抹の不安を抱いていたのだった。

韓国チーム
(キム・カッファン チャン・コーハン チョイ・ボンゲ)

 韓国、ソウル郊外の山奥、ランニングにいそしむ3人の男と2人の男の子がいた。
 先頭の大男と小男、それを追いかけるようについていく鬼気迫る表情の男、そして後から男の子たちがついていくのだった。

ことの起こりは今から1ヵ月前のこと、否、更に2、3ヵ月前、前回の大会からさかのぼる。
「奉仕活動?」
「何でそんなことしなきゃいけないでヤンスか」
 訝る大男のチャンと小男のチョイに呼びかけたキムの長男のドンは説明する。
「ほら、ここ最近2人とも大会に出られなくて退屈してるじゃない。その調子で父さんが帰ってしごきの日々に戻ったら、それこそ身体がもたないよ」
『出来れば永久に帰ってほしくはないんでヤンスが・・・・・』
 チョイはふとそう思う。そんな時、ドンの眼光が一瞬光る。2人はそれにビビってしまう。その後でドンはやけに人懐っこい表情で続ける。
「だからさ、こうやって町中をきれいにすれば町の人たちは『ああ、あの2人は本当に更生してるんだなあ』って思うわけさ。そうすれば父さんのしごきもいくらか和らぐし、次のKOFからは堂々おおっぴらに暴れられるよ」
「そ、そうか、そうだよな・・・・・」
 ドンの言葉にチャンの表情も和らぐ。
「それからあわよくば、多少の気ままな生活を送れるかもね」
 その言葉に2人の表情はほころんだ。
『気ままな生活』
『大会で暴れ放題』
 その思いが2人の脳裏をよぎる。出来れば『キムからの完全なる解放』というのが究極の理想なのだが、もはやこれは叶わぬことだった。なればこそ先の2つにかけるしかなかった。

 そんなわけで、チャンとチョイの奉仕活動が始まった。
 仕事の内容は、町内の清掃から粗大ゴミの撤去回収などの面倒な仕事がほとんどだった。
 しかしその実は、2人を利用したドンのアルバイト作戦だったのだ。
 2人の働きに応じてドンがバイト代をもらう、まあ一人で使うには多いので、活動の経費として、もしもの時の2人の反発を抑えるための食事代を工面したりもした。
 そんな2人としても、ドンにいいように使われるのはシャクだが、結構面倒見がよいのでそのまま妥協することとする。
何よりも時折見せる父譲りの眼光にビビってしまってしまったのも一因なのもあるのだが。

 一方弟のジェイは兄の行動を快く思わず、いつかたしなめようとも思っていた。本当なら、父に一切を告げようとも思ったけど、その後の悶着がやはり怖いので今しばらくは様子を見ることにしようとも思うのだが。

そうこうとしているうちに、事件は起こった。きっかけは1冊の週刊誌からだった。

「ようドン、お前の父ちゃんの仲間ひきつれて何企んでるんだ」
 数人の悪ガキたちがドンたちに絡んできた。以前からドンたち兄弟と敵対しているグループであった。
「何だよ、今奉仕活動してるんだ。お前らには関係ないだろ」
「何だ、お前知らないのか」
 と、一人が1冊の週刊誌を投げだす、それをジェイが拾うと、記事にはこう書かれていた。

『韓国一の極悪トリオ、復活か』

 とのタイトルで、どこからか隠し撮りされていたのか、2人をしごいているキムの姿がでかでかと移されていたのだ。それを呆然と見つめるジェイ、一方のドンは何を今更と思いつつそのままで、そしてチャンとチョイの2人はおもむろにジェイから週刊誌を受け取る。それをゆっくりと読みつつ2人は、
『俺たちはともかく、旦那まで極悪トリオのメンバーか・・・・・』
『ま、ある意味極悪人でヤンスがねえ・・・・・』
『しかしよ、俺たち今まで悪いことやったか・・・・・』
『やるヒマがないでヤンしたねえ・・・・・』
 とまあ、2人が週刊誌に目を通している際にも、子供たちの口論は続いていた。
「・・・で、これが俺たちとどんな関係あるんだ、親父たちは親父たちだろ。こんなの始めっから分かってんだ」
「ヘッ、どうだかな、今まで散々暴れまわったくせに今更こんなよい子ぶって、イメージアップなんて見え見えなんだよ」
「・・・・・」
「それとも何か、今更更生しますってのか、こんな妄言、だれが信じるもんかよ」
「・・・・・」
「誰が見たってお前もおっさんたちをこき使ってんだろ、やっぱりお前も親父同様、本性を現しちまったか」
「・・・もういっぺん、言ってみろよ・・・・・」
 ドンの眼光が、ひと際強く光る、それに驚愕するジェイとチャン、チョイであった。
 その直後、惨劇は起こった・・・・・。

 キムが帰宅したのはその日の夕刻だった。待っていたのは困惑しきった妻と蒼白な表情のチャン、チョイとジェイ、そして半ば不貞腐れた表情のドンだった。
 一方のキムの表情は絵に描いたような殺気を醸し出しており、手には件の週刊紙が握られていた。
「だいたいのことは分かっているつもりだ・・・・・」
 そんな怒りの表情のキムにジェイは言葉を絞り出す。
「・・・父さん、僕たち・・・・・」
「・・・お前たちの気持ちも痛いほど分かるぞ。これというのも・・・・・」
 キムはその週刊紙を握りしめ、チャンとチョイの2人をにらみ付ける。
「このような妄言が触れ回るなど我らにとってはこの上なき恥辱。何としてもこの汚名は晴らさなければならぬ。そこで次回のKOFは我ら3人で出場し、その心意気を再び世界に知らしめるのだ」
「はっ、はあ・・・・・」
 そのキムの宣言に、一瞬2人は喜びかけた、まあ状況が状況なので。そして次の一言が2人の心を寒くした。
「そこで大会までに、なまった心と体を鍛え直すために今から特訓を始める」
「え、ええ〜っ!?
 そんな2人をキムはつま先蹴りで突き飛ばす。
「休んでる暇はないぞ、ほら、まずは町内百周だ、駆け足、始め!」
「ひーっ」
 とまあ、キムにせき立てられるままに走り出す2人だった。

「ねえ兄さん、僕たちも修行に付き合わなきゃいけないんじゃないの」
「え、なんで俺も付き合わなきゃいけないんだよ」
「だってそうでしょ、あの記事は父さんたちの責任だとしても、それからのことは兄さんの責任だよ」
 遅ればせながら、あれからどうなったかというと、ドンは悪ガキたちを倒して、なおも攻め続けようとしてジェイ、チャン、チョイに止められたのだ。この事件で悪ガキたちは全員重傷を負ってしまったそうな。しかしながらそのことはこの時点ではキムは気にはしていなかったのも事実だったが。
「そ、そりゃそうだけどよ、これは親父たちの問題だろ」
「それとも、こんな状況でさっきのことを言うつもり」
 わずかだか、ジェイの眼光が光る。キムはともかくドンのそれには及ばないが、ドンを制するには十分だった。
「わ、分かったよ、俺も付き合えばいいだろ、そんなに脅かすなよ」
 そんなわけでドンとジェイも修行に付き合うことになった。

以上のようないきさつで、キムたちの修行が再開された。そんな5人の修行を遠目から見る欧米人が双眼鏡から目を離し、携帯をかける。
「はっ、キム、チャン、チョイの3人が大会に出場する運びです・・・えっ、ただちに帰還せよ、ですか。はっ、分かりました」
 と、携帯を切り、バイクでいずこかへと去るのだった。

女性格闘家チーム
(キング 不知火舞 ユリ=サカザキ)

「もうっ、お兄ちゃんたちったらひどいのよ。いきなりあたしをのけ者にするんだから!」
「んもう、テリーもアンディも私のことなんかこれっぽっちも思っちゃいないんだから!」
 バー・イリュージョン、格闘家キングの経営するこの店に訪れた舞とユリが口々に不満をぶつける中、キングは一通の手紙を読んでいた。

ことの発端は舞とユリがほぼ同じく店を訪れたことから始まる。はち合わせた二人はいぶかりながらもそれぞれ事情を話すや、何かに気づいたらしく、憤慨しつつ店に入ってきたのだ。

そんなわけでカウンターで騒ぐ二人。確かにカウンターの傍らには、それぞれテリーとリョウの手紙が置かれていた。もちろんキングはそれらにも目を通しており、今読んでいる手紙は特にじっくりと読んでいた。
 ややあって、その手紙を読み終えると、
「はいはい二人ともそこまで」
 と、キングはさっきまで読んでいた一通の手紙をカウンターに差し出す。
「確かにね、私もリョウやテリーに口裏を合わせるようにって頼まれたけど。それはそうと、これは三通目の手紙で、ハイデルンからのよ」
「え、ハイデルンって、あの傭兵さんの」
「でもなんでキングさんに」
「遠回しに言って、大会は別にして協力しろってさ。そこで私にこの手紙を寄越したんだ、ということはテリーやリョウたちにもコンタクトを取ったはずだ。もっとも先方はあんたたちはテリーたちが事情を伝えると思っていたけれどね」
「あ、そういえば・・・・・」
「だからあたしたちにキングさんを訪ねるようにって」
「そういうこと、私たちは私たちで参加するようにってことさ。まあ、結局はもともとのメンバーで参加するんだ、そうそう悪い条件じゃないだろう」
「それはそうだけどねえ、でも結局お兄ちゃんたちにのせられた形になるってのはどうも気に入らないんだよね」
 そんな不貞腐れるユリにキングはやけに優しく諭す。
「それも大会でぶつけりゃいいさ、それに本当の目的があるってことも忘れないでね」
「う・・・・・」
 舞もユリもその言葉に一瞬氷りつき、あとはただ、乾いた笑いを発するのみであった。確かに、本当の敵というものも考えないでもなかったのだが。
 そんな二人にキングはジンジャーエールを、自分にはシャンパンをグラスに注ぐ。
「まあともかく、久しぶりのチーム復活だ。まずは前祝いといこうか」
「あ、うん、そうだね」
「まあ、そういうことなら、チーム復活を祝って、かんぱーい!」
 と、3人はグラスを高々と掲げる。当面の相手はテリーとリョウたち、そしてアッシュという男とその陰に蠢く者、それらすべてをやっつけて、自分たちの強さを証明するのだ。

 あとは野となれ山となれ、もはや誰も彼女たちを止められない。

クーラチーム
(クーラ=ダイアモンド ダイアナ フォクシー)

 スイス、ベルン郊外の山荘のベランダにて二人の長身の女が剣をぶつけあっていた。二人の女は元ネスツ・戦闘指揮ユニットのダイアナとフォクシーである。
 二人は先のイグニスの乱において彼女たちの保護下の戦闘ユニットであるアンチK’ことクーラ=ダイアモンドとともに組織を追われ、うちフォクシーはその際にクーラをかばい重傷を負うにいたる。
 ネスツ壊滅後は、同じく元ネスツの工作員で二人のドナーだったセーラことウィップを通じハイデルンの傭兵部隊の保護下に入る。

 そこそこに訓練を切り上げた二人にウィップと蒼白い髪の少女、クーラが近付いてきた。
「二人とも元気してた」
「おかげさまで、ほとんど調子が戻ってきたわ」
「よかった、これで次の大会に出られるね」
「うん・・・どういうこと、クーラ」
 ダイアナが問う。するとハイデルンが続いて近づいてきた。
「近々開催されるKOF、今まで君たちのコンディションを考慮し、クーラのみを参加させていたが、今回ばかりは君たちの力を借りたい」
「・・・そう、それは異存はないわ。ぜひとも協力させてもらいます」
 と、ダイアナは快諾の旨を伝える。
「そうか、ありがたい、もっとも、大会そのものに関してはお互い対戦者として存分に闘わせてもらうが」
「それも承知している。誰が勝っても恨みはなし、か。しかしながら目的は彼の地の者とやらに対するのみではないはず」
「・・・うむ、そのことだが・・・・・」
 フォクシーの言にハイデルンが応えようとすると、突然一機のヘリが飛んできて山荘上空に止まったかと思えば、そこから何かが跳び降りてきた。
 着地した人影は黒い服に身を包んだボブカットの女と、それにしがみついていたメイド風の少女だった。
 ハイデルンはやや平静を装いながらその女たちに話しかける。
「・・・元バーンシュタインのエージェント、アヤ、か」
「お見知り置きを、ミスター・ハイデルン」
 と返すや、上空のヘリに向かって、
「合流地点まで」
『了解』
 と、ヘリは飛び去っていく。
「それでは、本題に入りますわ、アイラ・・・・・」
 アヤに促され、アイラと呼ばれた少女は恭しく告げる。
「・・・はい、先日ローザラーテ=バーンシュタイン様が出奔いたしました。それについてハイデルン様には適切な対処をとアーデルハイド様からの要請です」
「ローザラーテ、アーデルハイドの妹、なのか」
 ハイデルンの言を置き、アイラは続ける。
「なおアーデルハイド様については、アッシュ様、シェン・ウー様とチームを結成し、来るべき大会に参加するよしにございます。その時は正々堂々とのことです」
「正々堂々、か、ふふ、よく分かった」
「以上が伝達事項です、それでは」
 と、アイラを脇に寄せ、アヤたちはそのまま姿を消す。
「ローザラーテ・・・ローズか、確かに、父親の気概、というところだな、悪い意味での・・・・・」
 感慨深げにハイデルンが言う。
「アーデルハイド、ルガールの残党のようなものか」
 フォクシーの言にハイデルンはやや苦い想いで応える。
「その表現は、正確ではないな・・・・・」
「いずれにしても悪いようにはしない。すすんで協力させてもらうわ」
 ダイアナが返す。それにクーラも、
「でも、あのアイラって子、何か寂しそうだったね」
「そうね、だけど今は目前の大会のことを考えましょう」
「うん・・・・・」
 ダイアナが諭し、フォクシーがハイデルンに向かって告げる。
「ともかくこの3人チームが組むこととなる、けれど・・・・・」
「そうね、そうなれば私もそうそうクーラのサポートもしていられないから」
「心配ないわ、それについてもちゃんと対策はしているから」
 と、ウィップが告げる。
「これはささやかだがプレゼントだ」
 続くハイデルンの合図とともに、数人の隊員が1個のケースを運び込み、それを開くと中にはとある機械が入っていた。
「起動」
『了解』
「えっ?」
 ハイデルンの声に反応したその機械から発せられた声は、クーラもよく知っている声だった。やがて機械は箱型からある程度展開して人型へと変形する。
「キャンディー」
『ようやく修理が完了したよ、永く待たせてごめんね、クーラ』
「この声、まさか、ゆずちゃん」
 声の主は巻島博士の姪のゆずであった。
「彼女にも特別に協力を仰いでもらった。まあ確かにキャンディーも兵器の類なのだが、それをおして修理を引き受けてくれたのだ」
『クーラもキャンディーも友達だからね、闘うのは仕方がないけれど、人々の役に立つならあたしも力になるよ』
「うん、ありがとう、ゆずちゃん」
 こうして、ゆずによって蘇ったキャンディー、そしてダイアナ、フォクシーとともに来たるKOFに参加する運びとなった、のだが・・・・・、

「しかし、彼の地の者、アーデルハイド、対するは彼らだけではないはす」
「そうだな、永い眠りから覚めた、奴らもまた・・・・・」
 と、ダイアナとフォクシーがそれぞれの懸念を述べるが、
「それも心配ないわ、だってあなたたちだけ闘わせはしないから」
「それもそうだったな、セーラ」
 ウィップの言葉に、二人も多少の安堵を浮かべる。


備考
巻島ゆず:ネオジオバトルコロシアムにてサイバーウーのオペレーターとして登場した彼女は当記事においては巻島博士の姪という設定で、2000で大破したクーラのサポートロボットのキャンディーを修理した。