THE KING OF FIGHTERS
アナザーストーリーその1

アッシュチーム
(アッシュ=クリムゾン シェン・ウー アーデルハイド=バーンシュタイン)

ドイツ郊外の黒き森・シュヴァルツ・バルト、そのうっそうとした森の中の間道を東洋風の男が歩いている。
 男の名はシェン・ウー、上海界隈ではその名の知れたストリートファイターであった。
「しっかしアッシュの野郎、わざわざドイツまで呼びやがって、いったいどういうつもりだ」
 前回の大会後、オズワルドとの決闘も結局は決着がつかず、ある程度のプライドも多くの強者との激闘で揺らぎ、今まで道場破りを中心とした修行の旅を続けていた。
 ようやくそれに一区切りをつけた矢先、彼の目の前に3人の女―正確にいえば2人の女と1人の少女が現れ、アッシュの手紙とともにここシュヴァルツ・バルトへと来るようにと告げる。

こうしているうちに1件の古びた館にたどり着く。
「ここで間違いねえようだな、さて、と」
 シェンは遠慮なく館の扉を開く。そこには先にであった女たち、元バーンシュタインのエージェント、赤い髪のヒメーネとボブカットのアヤ、そして真ん中のメイドの少女、アイラが待ち構えていた。
「ようこそいらっしゃいました、アデル様とアッシュ様がお待ちです」
 アイラが告げるとシェンは館の奥まった扉、エレベーターの中へと入っていく。館はいわばカモフラージュでかつてのバーンシュタイン所有の拠点のひとつ―ルガールの組織およびネスツ解体後、ハイデルンの部隊によっていくつかの拠点を押収された後、残されたものの一つであった。
 どれくらい下に降りたのだろうか、そのエレベーターが止まった先、地上の館とは打って変わって近未来的な施設の回廊を歩き、やがて一つの部屋へと入っていく。
 そこには丸いテーブルを中心に囲んだ丸いソファーに腰を掛けているアッシュがいた。

「やあ、遅かったね、シェン」
「やっぱりお前も呼ばれたクチか。で、ここの主人のアデルの野郎はどこにいるんだ」
「わたしならここだ、シェン・ウー。これで、3人そろったわけだな」
 いつのまにか今の施設の主人であるアーデルハイド=バーンシュタイン―ルガールの息子、と目される男―が入ってきた。
 シェンはテーブルを挟みアッシュと反対側の席にどっかと座りこむ。
「まあ、そんなわけだな、ところでアデルよ、おめえの脇にいつもくっついていた、あの高慢チキなガキはどうした」
「彼女はわけありで家出中さ。アデルがあまりにも不甲斐ないからだってさ」
 代わりにアッシュが応える。
「家出ぇ、しかしそんな度胸のあるタマたあ、思えねえけどよ」
「残念ながら、事実だ。そのことを含めて君たちに依頼したい事があってここまで呼びよせたわけだ」
 アデルの神妙な言にアッシュはやや軽い口調で返す。
「まあつまり、僕たち2人に君と組めって言うんだね」
「・・・そうだ」
 応えるアデルの言は重い。
「まあそれなら話が早え。大会まではここでゆっくりとさせてもらおうか」
「ああ、ここの施設は自由に使ってもかまわない。それに君たちを拘束するつもりはないから」
「そうだね、それじゃあお言葉に甘えさせてもらうよ。それはそうと・・・・・」
 アッシュは後ろに控えていたアイラに近づきつつ問う。
「楽しめる施設ってのはあるかい」
「・・・あ、はい、こちらですが・・・・・」
 と、アッシュとともに部屋を後にする。それをそれぞれに2人は見守っていた。

ややあってアデルが地上の屋敷のバルコニーに姿を現す。外は夜空、シュヴァルツ・バルトの上空には満天の星空が輝いていた。
 ふとアデルは星空を眺め、後に頭を垂れて軽いため息をつく。
「・・・ローズ・・・・・」
 そんなアデルの背後に何故かシェンが姿を現す。
「やっぱり心配のようだな」
「うむ、笑ってくれてもかまわぬが」
「笑わねえよ、ていうか、おめえの気持ちは痛えほどよく分かるぜ」
 自嘲するアデルにシェンはやけに気さくな笑いで応える。
「すまない、あのような妹でもわたしにとってはただ一人の妹だ。確かにわたしたち兄妹、本当はもっと多くの兄弟姉妹がいたが・・・今ではわたしたち2人となってしまった。そう、わたしたち兄妹はルガール=バーンシュタインの子供だ、しかし・・・・・」
「おっと、そこから先は言いっこなしだ」
 アデルの言をなぜかシェンが遮る。
「俺もな、他人のハラワタを切り開くようなことはしたくはねえ。確かにルガールって奴のことは耳にしたことはあるが、今はおめえのこととは別のことだろう。おめえはおめえなんだからよ」
「・・・・・」
「それにだ、おめえもアッシュも今は俺を利用するだけだが、まあ一度組んだ相手はとことん守る。それが俺の仁義ってやつだ」
「・・・仁義、か・・・・・」
「ま、言いてえことは言ったつもりだ、それじゃあな、明日も早えからな」
 と、シェンは中へと入っていく。アデルはその言葉をかみしめるかのごとく、ただその場をたたずむのみだった。

一方、アッシュはとある一室でアイラに何やらを話していた。
「・・・というわけだから、連絡はよろしくね」
「はい、わかりました・・・・・」
 と、アイラはその場を離れる。
「彼の地の者とともに、彼らも来てくれるんだ。そしてアーデルハイド、草薙京・・・ふふ、今回も結構楽しめそうだね」
 これから起こるであろう大いなる闘いの宴に、アッシュはただ薄笑いを浮かべるのみであった。

京チーム
(草薙京 二階堂紅丸 大門五郎)

 草薙京、二階堂紅丸、大門五郎、この三人が一同に揃ったのは、もう何年か昔のように思えた。
思えば先の大会で八神庵がアッシユに八坂瓊の力を奪われて以来、今まで連絡が取れなかったこともある。それだけに紅丸も京にいち早く会わなければならなかった。
 そして待ち合わせの当日、京と紅丸はしばらく目を合わせるだけだったが、やがて紅丸がふと口を開く。
「一体どこまでほっつき歩いてたんだ」
「いろいろ面倒だからよ、そうそう連絡なんてしてられなかったんだよ」
「で、学校は結局辞めちゃうは、親父さんはともかくユキちゃんとも連絡は取らないは、とにかくみんな心配してたんだぜ」
 多少恩着せがましい口調で紅丸は言う。
「ああ、すまねえな」
 その応えには紅丸も意外だった。
「だがよ、俺も何もしなかったってわけじゃなかったんだ。俺は俺なりに力をつけてたつもりだ。それよりも、ユキはどうしてる」
「ああ、普通に生活してるぜ。何せ物好きなボランティア気取りの傭兵さんたちが2、3人がかりで四六時中ボディーガードやってるわけだ」
「・・・まあ彼女はついでに過ぎぬが、本当に用があるのは君たちだ」
 と、一人の長身隻眼の軍人風の男、傭兵部隊の司令官ハイデルンが姿を現す。
「ああ、あんたか、で、いったい何の用だ」
 と、いきなり現れたハイデルンに京が問う。
「単刀直入に言おう。次回開催されるだろうKOFに出場してその裏面に蠢く者どもに対処してもらいたい」
 そのハイデルンの言葉に京は半ば意外そうに応える。
「何だか、俺たちを勧誘しようってことじゃねえようだな、ていうか、俺たちは今まで任務の障害じゃなかったのか」
「その任務遂行のためには勝ち抜かねばならなかったのだ。もちろんそれに際しては正々堂々とあたったつもりだ。その意味でも君たちをはじめとする対戦者たちはよきライバルだとは思っているがな」
 その言葉に、今更とは思いながらも納得せざるを得ない京だった。
「それにだ、レオナと同じく、わたしもそうそう君たちと遠い間柄ではない」
 と言うや、ハイデルンはおもむろに眼帯を外す。外した右目は縦一文字の傷がまぶたを横切っていた。しかしそのまぶたが開く。そしてその眼は紅き蛇の目であった。絶句する紅丸と大門、しかし京はやや冷静な口調で問う。
「・・・いつからだ・・・・・?」
「ルガールにやられて数か月経たぬうちだ。まあ見るには不自由だが」

「なるほどな、これならレオナの件もある程度納得いったけどなあ」
 3人ともハイデルンのこの告白に感慨を覚えずにはいられなかった。再び眼帯をかけるハイデルンに京は続ける。
「とにかく、協力の件は異存はねえが、もう一つ聞きたいことがある、アーデルハイドってのは一体何者なんだ?」

 その問いに、ハイデルンはやや重い口調で応える。
「彼は確かにルガールの息子だ。しかし母親はいない。わたしが言えることはこれだけだ」
「ああ、なるほどな・・・・・」
 京もこれ以上は詮索はしなかった。

 やがてハイデルンも去り、京たち3人が残った。
「さて、話がまとまって俺たちで大会に参加するって運びになった以上、それまで調整して待つだけだがよ、その前にやることがあるだろう」
「どういうことだ?」
 返す京に大門が代わりに応える。
「父上とユキさんの件がある。行って安心させてやれ」
「あ、そうか、わかったよ」
 と、踵を返して去っていく。それを肩をすくめつつ紅丸と大門が見送っていく。
「うむ、やはり大丈夫か?」
「まあ、大丈夫だろ、京は京で今まで修業をしてきたし、俺たちもそれは同様だ。つまりは先の件とは違うからな、まあ何とかやってみるさ」
 その紅丸の軽口に大門も半ば憮然としながらも、何故か頼もしく感じるのだった。

K’チーム
(K’ マキシマ ウィップ)

K’、元ネスツの戦闘ユニットで自らの記憶を求めるべく同じくサイボーグ工作員のマキシマとともに組織を脱走、後に総指揮ユニット、イグニスを倒し、現在、ハイデルンの傭兵部隊の監視のもと、それなりに自由な生活を満喫している、はずであった。

その日もK’はあてもなく街中を歩いていた。そんな彼に一人の男が近付いてきた。
「やはりここでしたか」
「・・・何か、用か・・・・・」
「はい、司令がウィップさんとともにホテルでお待ちです」
 男はハイデルン傭兵部隊から派遣されたいわゆるK’たちの監視官だった。
「やれやれ、また用事か」
「はあ、自分はただ見守るようにと指令されただけですので」
「ああ、分かってるよ」
 やや諦めた口調でK’は応える。そんな彼らに一人の女が近付いてくる。髪を少し逆立てた赤い髪にやや挑発的な顔立ちの女だった。
「ご機嫌はいかがかしら、ミスターK’」
「・・・何だ、お前は」
「あんたは、元バーンシュタインのエージェント、ヒメーネ」
 訝るK’にやや驚愕する監視官、それらをなだめるようにヒメーネと呼ばれた女は告げる。
「待って、今ここでどうこうとするつもりはないわ。ひとつ忠告をするためよ」
「忠告、だと・・・・・」
「ええ、これはあなた自身にとってのこと。実はあなたの分身と、あなたのボスだった男が、再び行動を起こす運びなのよ」
「・・・まさか」
 監視官が口をもらす。しかしK’は落ち着き払った口調で返す。
「・・・やはりな」
「確かに伝えたわよ。では、ハイデルン司令にもよしなに」
 と、ヒメーネは去っていく。

 ややあってK’は監視官とともに滞在先のホテルへと戻っていった。
「遅いじゃないか、K’」
「ああ、悪かったな・・・・・」
 マキシマの声に少し面倒臭そうに応える。続いて傍らのウィップとハイデルンが声をかける。
「おかえりなさい、サリー」
「久しぶりだな、クリザリッド」
「ああ、久しぶりだ、だがよ、その名前、やめろよ・・・・・」
 少し嫌そうにK’は応える。ただ言葉はハイデルンのみに向けられていた。
「ふふ、相変わらずだ。まあ大体のことは彼から聞いたことだが・・・・・」
「・・・その前にヒメーネって女が近付いてきた。アデルやルガールって奴の関係者って言ったが、いったい何なんだ」
 と、ハイデルンの言に割り込む。それもよほどのことであった。
「うむ、知ってのとおりネスツは確かにルガールと係わりがあった。自らが万一のことを考慮してのことだ。そしてその産物というものが・・・・・」
「・・・ああ、それも分かってる」
 K’の言も重い。続いてもう一つの話題に移る。
「それにだ、あいつらも、まだ生きていたんだ。ていうか、あんたは知ってたな」
「確かに死体を確認したわけではなかった。もっとも、基地の残骸には消し炭すら残る余地がなかったのだ」
 淡々とハイデルンは応える。ややあきれた口調でK’も返す。

「そうかよ、まあそれでも、あいつらとはいずれ決着つけなきゃいけねえ」
「そのために、私も司令にあなたたちとともに参加するように言われたのよ」
 ウィップに続き、マキシマもぼやき半分で口を開く。
「それだったら俺も、おやっさんか嬢ちゃんかで調整してもらうか」
「うむ、さっそく手配しよう」
「いずれにしても、つまんねえことだ。俺は少し寝るぜ」
 と、K’は自室へと向かう。ハイデルンたちも今のK’の心情をほぼ理解していた。
「・・・サリー・・・・・」
 特にウィップはその後ろ姿を見守っていた。

「・・・ま、向かってくる奴は適当に相手をするだけだな・・・・・」
 ベッドの上で横になりつつ、K’はつぶやく。

餓狼伝説チーム
(テリー=ボガード アンディ=ボガード ジョー東)

 サウスタウン郊外の墓地に今年も男は訪れていた。
 男の手には一本の薔薇が握られていた。そして小高い丘の上、一つの墓標の前に立った。

『ジェフ=ボガード 誰よりも街を愛し、誰よりも街に愛された男』

 その男、テリー=ボガードは持っていた薔薇を供えようとした。しかし墓標にはすでに薔薇の束が置かれていたのだ。さらにテリーの傍らには長身隻眼の軍人風の男が立っていた。
「やあ、あんたか、ハイデルン、そういえば親父とは知り合いだとは聞いたけどな」
「多少はな、ことのついでに訪れたわけだが、本当に用があるのは君だ、テリー=ボガード」
「・・・俺に、か、まあ改まって、一体何の用があるって、いうんだ・・・・・」
 返すテリーも言葉を重ねるうち、ハイデルンの意図を掴みかけていった。
「うむ、近々行われるであろうKOFの件でだ。先の大会で、裏面で蠢いていたものたちがいることは知っているだろう」
「・・・ああ、分かっているさ・・・・・」
 テリーもふと、辺りの気配を感じ取ろうとした。
「心配ない、わたしたち三人だけだ」
「・・・ああ、マリーも来てたのか」
 いつのまにかハイデルンの傍らにはブルーマリーが立っていた。
「私もハイデルンに呼ばれたくちでね。まあそれだけ大きなヤマってところなの」
「それでは、要件を言おう。次回開催されるキング・オブ・ファイターズにおいて、大会の裏面で暗躍する勢力の動向を探るのに協力をしてもらいたい。もちろん、仕合に関しては別としてだが」
「なるほどな、俺たちは勝っても負けても、あんたたちに協力をするってことだな。まあもっとも、俺たちは負ける気はしねえけどさ」
「ふふ、その意気だ。考えてみれば君もジェフの気概をとうに超えているやもしれんな」
「さあ、どうかな、ともかく俺たちの件はよしとして・・・・・」
 ふとテリーはマリーに言葉を向ける。
「ところで、マリーは誰と組むんだ?」
「それは企業秘密よ、と言いたいけれど、前回とは別で、女同士で組む予定よ」
「・・・なるほどな」
 テリーが軽く目先を変えるとハイデルンが軽く咳払いをする。
「・・・教えるなと言ったはずだが、まあともかく、彼女にも指令を与えている」
「ま、あとは大会でのお楽しみということか、それだったら、さっそくアンディたちと作戦会議といこうかな」
 と、踵を返して墓地を後にする。それをハイデルンは軽い笑みを浮かべ、マリーは親指を立てて送る。
「さてと、俺の件はよしとして、あとはアンディたちだな、一応連絡は取っておくか・・・・・」

 所変わって、日本の不知火流道場、鳴る電話を取ったのは師範代を務めるアンディ=ボガードだった。
「もしもし・・・・・」
「おっ、アンディか、ところで、舞は、今どうしてる」
 神妙なテリーの問いにアンディはやや平静な口調で応える。
「・・・うん、舞は、今、北斗丸と一緒に遊んでいるんだ、けど・・・・・」
 その応えにテリーはやや緊張を解いて返す。
「そいつは好都合だ、いいか、近いうちにまたKOFが開催される・・・・・」
「おっ、そいつは腕が鳴るぜ」
「ああ、ジョーも来てたのか」
「ああ、舞と入れ替わりだったんだ」
 アンディが煙たがりつつ応える。それに対し改まってテリーは続ける。
「そうか、だったら手短に言うが、今回は俺たちで組むこととする。あと舞の件だが・・・・・」
 と、舞をキング委ねることとして、それについての経緯を説明する。
「なるほどなあ、舞ちゃんはよしとして、キング姐さんも災難だ」
「ま、あれこれゴネられるよりは遥かにマシだろう」
「まあ、それはそうだけど、後が怖いよ」
 それについてテリーもやや緊張をほぐして応える。
「確かに、あいつら以上ってところだな。まあともかく、その意味でも俺たちは後戻りはできないってことさ、今まで以上に、な」
「うん、まあともかく、何とか舞を説得してみるよ。それじゃ、サウスタウンで落ち合おう」
 と、電話を切る。ちょうど舞が北斗丸を伴って戻ってきたところだった。

龍虎の拳チーム
(リョウ=サカザキ ロバート=ガルシア タクマ=サカザキ)

 二人の男はただ座しているのみであった。一人は白い胴着姿の壮年の男、もう一人は長身隻眼の軍人であった。
 その二人、タクマとハイデルン、言葉など不要と言わんばかりにただ座するのみであった。数刻の沈黙の後にタクマが重い口を開く。
「・・・して、今回ばかりはわしらに協力せよというのか」
「・・・左様、ただ仕合に関しては別、その時は正々堂々と」
「ふふ、それも望むところ」
「では、大会にて・・・・・」
 と、ハイデルンは立ち上がり、広間を後にする。

 ややあって、リョウとロバートの二人が入れ替わりに入ってくる。
「親父、ハイデルンは一体何を言ってたんだ」
 タクマに向かい座しつつリョウは問う。
「うむ、来る大会において暗躍する者たちをいぶり出すために協力せよとのことだ」
「せやまあ、大会には今までは陰謀はつきもんみたいになっとるけど、やっぱ、アッシユの兄ちゃんかいな」
 ロバートの言葉にタクマも返す。
「それもあるな、確かに神楽、八神とそれぞれの力を奪ったと柴舟どのから聞いた。そこで残るは草薙の、つまりは京くんの力だな。そしてそれらの力を用いるに、あのオロチの封印を破ることだな」
「やっぱ、オロチの力まで奪われちゃ、厄介やからなあ」
「だが、それらをねらうはそのアッシユだけではない」
「・・・う、確か・・・・・」
「・・・彼の地の者っていう・・・・・」
 2人は前回対峙した、あの異様な敵を思い出した。
「そうだ、おそらくはこの大会はかつてのオロチ以上に熾列な闘いとなるであろう。そこで我が極限流からはわしとリョウ、ロバートの3人で出場する」
「オス、腕が鳴るぜ」
「まあ、今更怖気づくのはなしや、とことん付き合うたるわ、って、ところで、ユリちゃんはどうする」
 その問いにはリョウが応える。

「ああ、それについてはちょっと手を打ってあるんだが・・・・・」

 一方ユリ=サカザキは一通りのトレーニングからの帰り道であった。そんな折、あのハイデルンとはち合わせんとしていた、のだが。
「フッ、ユリ=サカザキか、さて、わたしが話すのもなんだな、ここはでしゃばらず、タクマ殿にまかせるか」
 と、いち早くユリに気づいたハイデルンは姿を消す。
「あれ、誰かいたのかな」
 この場は隠れる場所はそうそうあるものではないが、確かにハイデルンは身を隠していた。気になりつつもユリは家路へと急ぐ。

 帰宅したユリを、神妙な面持ちでリョウたちが待ち構えていた。
「えっ、キングさんが病気」
「うん、本人はたいしたことないと言ってるが、何だか苦しそうだったからな」
「せや、ユリちゃんが見舞いに来ればきっと元気になるで」
「あ、うん、とにかく行ってみる」
 と言うや、身支度をすませ、次の日に一路イギリスへと向かっていった。それをリョウとロバートの2人は見送ったが。

「行ったか・・・・・」
「まあごねるよりはましやと思うけどな、その後のこと思うと気が重いなあ」
「まあ前にも言ったが、もはやユリだけの問題じゃない。今俺たちが出来ることはただトレーニングいいそしむたけだな」
「せやな、ここはなまった身体を鍛え直さなあかんな」
「それに、たるんだ精神もな。これは俺も同じたが」
「よっしゃ、今日はじっくりとトレーニング付き合ったるで」
「そうだな、それじゃ、道場まで走って行こうぜ」
「おうさ」
 とまあ、2人は駆け足で道場へと向かう。