銀河英雄伝説

概要

 言わずと知れた田中芳樹先生の描いたスペースオペラ小説。銀河系宇宙に進出した人類が一人の英雄が建てた銀河帝国と、その圧政から逃れた共和制国家・自由惑星同盟との永きにわたる戦乱をそれぞれの国から登場した2人の英雄の戦いを通じて収めていくとう話で、まあスペースオペラと銘打ちながらも中世ヨーロッパの戦乱をモチーフにしているのかなという感をしているのだが。
 それに重厚なストーリー展開ながらわりと流れるような展開が物語の醍醐味ともいえるけれど、その物語の展開には皮肉的な展開がしばしば現れていくのも、またある意味ご都合主義かなとも受け止められるけれど、まあそれがマイナスに働いているとも思えない、だろう。

 それが80年代後半になって劇場化、続いてOVA化とあいなった。実は編者もそのアニメから入った一人ではあるが。
 まず原作1・2巻を描いた第1期あたりはオリジナルの要素が多数あり、ラインハルト旗艦ブリュンヒルトの砲手兵やら同盟第13艦隊の士官3人組やらの出演の機会が与えられ、第10話にてジェシカの再起についてのエピソードや第14話の解放惑星にての悲喜劇も幅を利かせたりもした。
 また第9話の『クロプシュトック事件』、第11話の『女優退場』は本来は外伝1巻のエピソードですなわち本編の半年前あたりのストーリーだったがアニメにてカストロフ動乱直後の時系列に移行されてしまった。そのフォローのためか同じく外伝の『軍規をただす』のエピソードが4期に持ち越されてしまったりもしたが。

 その第1期の成功を受け、第2期以降も順次制作されたが、それ以来オリジナルの要素は抑えられ、原作に沿った作風に落ち着いてきた。しかも物語そのものにおいてのナレーションの割合が増えたのも特色といえる。
 あと白兵戦やら艦隊戦の激闘における艦内やらの阿鼻叫喚の地獄絵図など、ときおりのグロ描写もあったりとある意味こだわりを感じられた。
 あと、第3期の収録後、ヤン・ウェンリー役の富山敬さんが亡くなったことも印象深い。ちょうどヤンが暗殺されたのと重なったことも要因だから。
 ともかくも銀英伝は原作10巻(新刊では20巻分)のアニメ化を4期大過なく成し遂げられたのはファンならずとも賞賛できることである。

 あと外伝もある程度制作されたのだけど、それも物語の補完を十分に果たしたこと、まあそれにつけてもこれはどうでもいいことだけれども、外伝1巻に掲載されながらもアニメ化されなかったいわゆる“ゴールデンバウム王朝記”なるエピソードを、第3期59話のエピソードを前編として、本記事にて中、後編に分けてお送りしましょう。

オリジナル外伝:ゴールデンバウム王朝記(中編)

 開祖ルドルフ大帝より始まったゴールデンバウム王朝は数多くの善悪美醜の物語を生んだ。

ユリウスの皇太曾孫であり皇位継承者であるカールを追い落とし、帝位についたジキスムント2世は、これまでの国政の要職についていた三人の大臣を解任し、自らの腹心をその後任にあてた。
 それを機に彼は帝国の財政の私物化に乗り出すのであった。帝国のありとあらゆる富を集め、自らの富の象徴を築き上げる。そしてその富を独占するあげく、無実の富豪の多くを粛正するにもいたった。
 その有様を見て、近衛隊長は自らの責任とばかりに毒により自裁をした。遺された遺書を発見した彼の部下は直ちに息子のオトフリートに伝えた。以前より父の専横を憎んでいたオトフリートは、父帝を荘園に軟禁したのを皮きりに、父の腹心たる三人の大臣を粛正、社会秩序の安定に力を尽くした。

 改革は次のアウグスト1世に委ねられた。彼は先代の施政を継ぎ帝国の安定に力を注いだ。
しかし私生活においては別人のようにだらしがなかった。
 彼は髪の長い女性を好んだが、その偏愛ぶりはあきらかに常軌を逸し、それに伴う悲喜劇が宮廷内で繰り広げられた。それでも彼はその愚行を後宮内にとどめ、名君の名を後世にとどめた。

やがてアウグスト2世が帝位につき、帝国は暗黒の時代へと陥った。
 彼は即位前にはあらゆる快楽を知り尽くしたといわれ、その自堕落ぶりは父帝も目を背けずにはいられなかったが、廃するには至らなかった。
 ともかくも父帝の死後、即位したアウグスト2世は、先の痴愚帝ジギスムント2世とは違った意味で国を私物化し、帝国全土を恐怖のどん底へと突き落とした。
 まず彼は父帝の後宮の寵姫を虐殺したのを皮きりに二人の弟、更には実の母親までもその手に掛けた。そして国内の不穏分子の一掃を名目に、貴族、平民を問わず大量に誅殺された。
 その状況に立ち上がったのは皇帝の親族たるエーリッヒ・フォン・リンダーホープ侯爵であった。

 彼はアウグストの暴虐に対し反旗を翻し、辺境の警備隊を中心に反乱軍を組織した。これに対しアウグストは討伐のため大艦隊を組織した。ところがエーリッヒ側に3人の提督が味方につき、ここに反乱は内戦へと突入するかに見えた。

 開戦に先立ち、エーリッヒは討伐艦隊に対し通信を送る。
「誇りある帝国軍将兵たちよ、私エーリッヒ・フォン・リンダーホープは、暴虐のかぎりをつくし、始祖ルドルフ大帝より賜りし至尊の冠を汚せしアウグストを討伐せんとここに決起したものである。卿らも帝国の臣民であるならば、卿らにとって真の敵は何であるか、今一度考えられよ」
 討伐艦隊は騒然とした。
「ええい、陛下の呼び掛けに応じずあまつさえ反旗を翻す謀反人が何を言うか、そのような虚言に耳を貸すことなど・・・・・」
 言い終えぬうちに、提督の胸板を一筋の光が貫く。倒れ伏す提督をまたいで彼の副官が前に出る。
「さあ、俺を反逆者として処刑してくれ、俺もアウグスト陛下の暴虐はもはや受け入れられぬ」
 そんな副官に一人の士官が歩み寄る。
「副官どの、我々もエーリッヒ閣下のもとに行かせてください。我々も真に帝国のため戦いたく思います」
 こうして旗艦は反乱軍に投降し、ここに討伐軍は解体した。

一方、帝都オーディンにてはアウグストのもとに腹心シャンバーグ准将が駆けつけた。
「陛下・・・・・」
「おお、シャンバーグか、討伐軍はいかがした」
「はっ、討伐軍は大勝利のうちに終わり、首謀者のエーリッヒを捕らえ、今帝都まで護送中にございます」
「おお、それは重畳、ではいかようにも仕置きが出来るというものだな」
「左様です、陛下」
「おお、それは愉快、ぐわっはっはっは・・・・・!」
 哄笑するアウグストにシャンバーグは銃を向け、背後から頭を撃ちぬかれたアウグストはそのまま倒れ伏す。
「お許しください、陛下、お叱りは天上にてお受けいたします・・・・・」
 と、シャンバーグはこめかみに銃を向け自らを裁いた。

こうして帝都オーディンへ凱旋したエーリッヒは、新皇帝に即位した。それからの彼はこれといって目立った政治を行ったわけではないが、アウグスト2世の暴政を一掃し、帝国の安定を取り戻した功績により『止血帝』という贈り名を与えられた。

オリジナル外伝:ゴールデンバウム王朝記(後編)

 ゴールデンバウンム王朝、36代、約500年の歴史を重ねてきた理由の一つに、はからずに生み出された権力の移譲における絶妙の配列にあっただろう。歴代の皇帝の中にはジキスムント痴愚帝やアウグスト流血帝などの暗君暴君などが君臨したが、それらの悪政は次代の善政によって改善される。むろんその根底にはゴールデンバウム家という一血族による権力独占とそれに伴う社会構造全体の不公正という根本的な欠陥があるのだが。

 ともあれ、悪政による汚濁が極まれば、その後の善政によって澄み渡り、社会全体も何とか破綻をきたさずに済んだのであった。
 しかし、そのある意味安定の時代は一つの屈曲点を迎える。最大の外敵である自由惑星同盟の出現であった。これまで幾世代にわたって専制政治のもとで育ってきた銀河帝国の民衆の前に民主共和政治という危険な病原体というべき社会体制が甦ったのであった。

 ある時、帝国辺境部の難所と目された宙域を帝国軍戦艦が通過した時に、同じく国境地域を警戒にあたっていた同盟軍戦艦と遭遇した。
 これあるを覚悟した同盟軍に対し、帝国軍にとってはまさに青天の霹靂であった。結局帝国軍戦艦は沈められ、ほうぼうの体で逃げ帰ったシャトルによってその未確認の戦艦の情報が公開された。
 そのもたらされた凶報から、謎の戦艦の正体について、様々な記録が綿密に調査され、その結果、かつてアルタイル星系から脱出し行方をくらました共和主義者たちの末裔であるという結論が導き出された。
 ここに至り、時の皇帝フリードリヒ3世はヘルベルト大公指揮の討伐軍を組織した。
 その討伐軍は遠征ゆえに補給線が長く、加えてその補給を軽視し、そして敵の戦力を過小に評価し、その結果、同盟軍のリン・パオ、ユースフ=トパロウルの包囲殲滅戦により、ダゴン星域にて惨敗した。

 敗戦後、帝国ではその責を問う形での粛清劇をはじめとする凄惨な宮廷闘争が繰り広げられた。フリードリヒ3世が心労により死去したのち、マクシミリアン=ヨーゼフ1世、グスタフと帝位が引き継がれたが、いずれも急死し、特にグスタフは3月弱の在位から『百日帝』という不名誉な称号を得るに至る。
 そのグスタフから帝位を得たマクシミリアン=ヨーゼフ2世もまた、宮廷闘争に巻き込まれ、毒により半ば目が不自由となる。
 後に『晴眼帝』と目された彼は即位前に見染めた女官で後に皇后の地位を得たジークリンデと司法尚書ミュンツァーの補佐もあってまずまずの善政を執り行い、ことにフリードリヒ3世以来の宮廷内の弊害をほぼ一掃することにも至る。

 こうして帝国内の混乱は収まり、次代のコルネリアス1世の治世にほぼ安定を取り戻した。こうして国内の一応の安定を受け、コルネリアスは最大の外敵にして、今や帝国の不満分子を大量に受け入れ、その勢力は帝国に匹敵する自由惑星同盟と僭称する叛乱勢力を討伐に乗り出す。
 それに先立ちコルネリアスは、同盟政府に使者を送りこみ、領土を安堵する代わりに帝国への忠誠を誓わせようとした。当然のごとく同盟政府はその使者を3度にわたって追い返す。
 ともかくも、コルネリアスは自由惑星同盟を僭称する叛徒への討伐を決意する。帝国軍のほぼ全軍を投入、さらには皇帝自らが総指揮をとる親征の形をとり、まさに総力戦の体をとっていた。
 もっとも、ゴールデンバウム王朝において皇帝親征を行ったのは彼一人のみであって、後に皇帝親征を行ったラインハルトに言わせれば「壮大な軍事の無駄遣い」ということになる。
 その根拠となったのは、まずコルネリアス自身は親征全体を通して常に最後列にて指揮を執ったこと、次に占領した星々への略奪を容認したこと、そして何より、親征に先立っての彼が元帥に叙した者たちの数であった。
 これは軍備増強の一環としてわずかな功績でも昇進が約束されたこと、それが高じ希少なるべき元帥号を乱発し、時には小艦隊の司令官たる少将がいきなり元帥となることもあり、その結果58人という元帥が誕生した。
「皇帝の率いるは元帥2個小隊」という皮肉が後世にいわれるも、純軍事的には平凡ならざる面もコルネリアスにはあった。
「敵の力を過小に評価し、何より戦略の不徹底によるところが、フリードリヒ3世陛下をして敗軍帝ならしめた要因である。したがって戦略レベルにおける準備を万全に整えておけば我らをして勝利は必然たらしめるであろう。卿らの奮戦を期待する」
 はじめ同盟辺境部の諸惑星を占領し、結果同盟軍はそれらに対処するために兵力を分散してしまった。帝国軍は全兵力の1/3を失うもそれらの敵を撃滅し、続いて侵攻を食い止めようとした第2陣を数と量で撃砕した。ここにコルネリアスによる同盟領制圧は時間の問題に見えた。
 同盟首都、反乱勢力の根拠地ハイネセン擁するバーラト星系へと侵攻せんとしたまさにその時、帝都オーディンにおいて旧ヘルベルト大公派による宮廷クーデターが勃発したのだ。それに際してコルネリアスは全軍撤退を命ずる。そしてその撤退時に、編成しなおした同盟軍残存兵力によって軍の大半を失い、クーデター鎮圧時にもかなりの損害をこうむった。
 ここに、コルネリアスの親征は両軍痛み分け、否、全人類の覇者たらんとした彼の野望はここに頓挫することと相成ったのだ。

 この宮廷クーデターよりしばらくした後、フェザーン自治領の成立が相成ったが、後世、当時は一つの事件として処理されたこのクーデターはかつてのフェザーン成立前の商人レオポルド=ラープ、そして地球教徒が糸を引いていたという事項は数多くの研究から導き出されたことはあえて語るまでもないだろう。
 こうして、皇帝ラインハルトの登場までの100年余り、銀河を二分する争いが、それを意図したフェザーンを挟んで繰り広げられたのだった。

元自由惑星同盟軍少尉・銀河帝国民生次官 フランツ=ヴァーリモント著『銀河大戦記・前編』より

オリジナル外伝:ヴァーリモント氏放浪記

 アムリッツァ星域会戦に先立つ焦土作戦により、占領した惑星を追われ、辺境星域に逃げ延びた自由惑星同盟技術少尉フランツ=ヴァーリモントは、初めは素性を隠し日々の労働に従事していた。
 そんな折リップシュタット戦役のあおりを受け、貴族連合軍にくみした辺境貴族は民衆から搾取を行おうとしたが、辺境守備隊司令官のシュタインメッツによって平定された。
 そこで民衆側に立って抵抗を試みようとした勢力のリーダー格としてヴァーリモントはシュタインメッツとの会見の場を得、そのシュタインメッツから辺境に赴任したいきさつとともにラインハルトがこの帝国を、ひいてはこの銀河全体を根本からの改革を行うと聞かされる。その際に彼も自分の素性と正体を明かし、シュタインメッツもそれを黙認するも後に憲兵総監となったケスラーには告げ、ケスラーもひとまずの監視を置くことにする。
 そのラインハルトの壮大な計画に、自らもその計画の礎となるのは不快なことと思いつつ、その計画に対しいくらかの忠告をしようとするべく活動を起こす。それはいずれ祖国の同盟をも滅ぼされることでもあるが、それは帝国の旧体制も同様なのだろうと思い、それならば新しい時代にあった秩序と、帝国人民の統制と、旧同盟市民の勤勉さを生かせる社会のために自らの考えを書にしたためる。
 こうして出来たのがヴァーリモント白書の第1巻である。書の刊行に関しては自分に賛同する同志が比較的楽に集まったのと、あと社会秩序維持局の解散と憲兵総監ケスラーの指示で当面監視のみといったことが助けとなったのだろう。
 やがてラインハルトが同盟を併吞、フェザーン遷都の後ヴェスターラント事件に起因する皇帝暗殺未遂事件を受け、第2巻を刊行。それは初め暗殺未遂事件の責任を最後皇帝に帰することを示唆し、それを進言したオーベルシュタインの心情をほぼ正確に突き止めたものでもあった。この本もまた刊行に際しては支持者に扮した憲兵が2、3意見を言うのみで、ほとんど無修正で事実上の検閲を通過したのだ。

 この白書は帝国内で非公式ながらも発刊され、静かな反響を生んだ。さらには今や新領土となった旧同盟領内でももちろん発刊され絶大なる支持を得るに至る。ことにラインハルトの再侵攻の際、皇帝に不敬を働いたとして収監されるも当のラインハルトによって釈放された若手官僚たちは、彼こそが新しい指導者と見るようになる。
 さらには軍務省にもその白書が届けられ、処遇を聞くフェルナーにオーベルシュタインはただ手を振るのみであった。ともかくも処遇は民生省に移されることとなる。
 なんとその書をラインハルトも目にし、それに感じ入った後にブラッケ民生尚書とケスラーを呼ぶ、あいにくケスラーは友人の迎えのために不在で委細を聞かされた副官が代理に当たっていた。一瞬憮然とするが気を取り直し、常に民衆のために活動を行っている彼を今後民生省の管理に委ねることを告げる。
 後日ケスラーをその友人とも呼び寄せ、まずケスラーが先日の留守を陳謝しラインハルトもそれを受ける。続いてその友人、10歳になりフェザーンに新設された幼年学校に入学することとなったカールに成人後のクラインゲルト子爵家の家督を認める。

 その後も活動を続けるヴァーリモントは、ロイエンタール元帥叛乱事件を受け、今度はオーベルシュタイン、ミッターマイヤー両元帥のいずれかに隙が生じるとふみ、きたるべき破局に対する備えを講じようとした。
 そして迎えた、惑星ハイネセンでのオーベルシュタインの草刈り事件、その報を知るや否やの間に、帝国の兵士を伴って役人が訪れた。
 これあるを覚悟したヴァーリモントだが、訪れたのは帝国民政尚書ブラッケだったのだ。彼はオーベルシュタインのハイネセン出向を受け、ヴァーリモントを民政省にて保護をするべく出向したのだ。
 ブラッケの保護を受け入れたヴァーリモントはそのブラッケからある意外な要請を受ける。何と民政次官として迎え入れたいというのだ。妻子や助手とともにフェザーンへと飛び、民政省のポストを得たヴァーリモントは、ここにきて帝国内部からこの国を、より良い方向へと変革をしていこうと決心する。そのためには皇帝ラインハルトはもとより、その側近(と思っている)軍務尚書オーベルシュタインとの対峙も覚悟をしなければならないのだが、後にこの二人が早く亡くなり。これも皮肉なことだが、ブラッケを通じて数多くの政策を提案し、また新領土として旧同盟領の市民を再開発としての復興事業への啓発に尽力した。

 後に彼は『最初の帝国人民』『戦後初の英雄』あとユリアンと並ぶ『民主主義中興の祖』として後世の歴史に名を残すこととなる。