ているず・おぶ・じ・あにす!
TALES OF THE ABYSS Second Story

この記事は2005年に発売された
TALES OF THE ABYSSの純粋な続編として
編者なりに構想を練り、形にした作品です。
原作から数年後、成長したアニスを主人公に、人類全体の存亡と存在意義をかけ戦い抜く
アニスの姿を通じ、人類や世界の生まれてきた意味を見出すストーリーを
お楽しみください。

第1章:聖獣の森の少女

アニス=タトリン
ローレライ教団の騎士団を辞めて各地の諸事件に対応する、いわゆる『なんでも屋』の稼業を始める。
かつての戦乱から数年後、折しも世界は徐々にではあるがスコアに頼らず自らの意思で生きていこうとする動きが出てきた。そんな人々をサポートするべく各国を筆頭に、アニスも個人的かつ有料ではあるが働きかけていたのだ。
さらには世界そのものも外郭の降下とともに惑星運行に関する時間の概念も大きく変わったことも忘れ去らざる事項でもあった。
そんなある日、雑用をこなしつつも各地の諸問題を解決した後に、聖獣の街にて作物の盗難事件が起き、その解決を依頼される。
件の聖獣の森に赴くアニス、そこは近隣にルークが大規模な農場を開墾し、そこでは豊富な作物が生産されている一大農園地帯と成長した。これははじめ、先の戦乱に先立ちマルクト領に飛ばされた際、無断で作物を食べた罪滅ぼしから始まったことであるのだが、今やこの街の中興の祖と祭り上げられてもいた。さておき盗み食いの獣の件は当時ならいざ知らず最近ではささやかな事項でもあるのだが、それでも仕事は仕事。かつての聖獣の森が怪しいと踏んでその森に赴くアニス。そこで作物を盗み食いをした聖獣の子供と出くわす。その聖獣にどこか懐かしい感じを覚え、襲ってきた聖獣の攻撃を受け止めつつ、その敵意をそぐ。
こうして確保した聖獣の子供はかつての親友の名から“アリエッタ”と名付け、フローリアンに預けることにした。
最近のフローリアン、今やイオンと名乗っている彼も、当初の無垢なイメージに合わせ、ある程度の思慮深さを帯びてきた。実は何らかの事象でオリジナルを含めて多くのレプリカの思考をも受け継いでいて、彼自身もそれを受け入れ、この世界のために活かそうと決めていたのだ。そしてそれを支えようとするアニス、そしてもう一頭、フローリアンの守護が誕生したのだ。
「今度こそ、フローリアンを、イオンをしっかり守るんだよ、アリエッタ」
そんな二人を見守りつつも、ダアトを後にするアニス。手を振るフローリアン、アリエッタも名残惜しそうに軽く咆哮するのだった。

第1章補足:正悟師サフィールの憂鬱

ある程度の任務と依頼をこなしていく中、ダアト郊外にある孤児院を訪れた。ここは先の戦乱や災害で親を失った子供たちを預かり育成していく施設である。かくいうアニスも時折仕事の報酬等をここに寄付していたのだ。今回もそのために訪れたのだが。
そこには子供たちが元気に遊び回っていた。その中で子供たちを親身に世話している一人の男がいた。アニスはその男を知っている。否、彼こそがかつてのオラクル六神将の一人にして最後の生き残り“死神ディスト”今やジェイドに洗脳され、今や教団の正悟師としてこの孤児院の経営を任されている。
かつては敵として戦い合った仲だが、今はそんなことがなかったかのごとくアニスも親しく語り合う。
実はサフィールの洗脳の事情についてアニスは知っていたのだ。一概に洗脳といっているが、あの戦乱の後ジェイドが廃人同然となっていたディストを、自分が知りうる幼きサフィールの人格を刷り込み、今の人格と成したのだ。
ともかくも今のサフィールと子供たちの生活がいつまでも続くことを願っているアニスだった。一抹の不安を抱えながら。
ところがその不安が顕現化しえる事件が、ある程度の仕事をこなした後で起こったのだ。子供たちが身代金目的で幾人かがさらわれたのだ。
犯人はオラクル騎士団の残党の中で特に素行が悪く、そのままゴロツキ化した輩だった。子供たちをさらわれ不安いっぱいのサフィールに、アニスはひとまず安心させて、かつかんでつぶすように諭してから犯人が立てこもるという山の洞窟に向かう。途中“漆黒の翼”から教えられた隠し扉を見付け、そこに仕掛けられた罠等をかいくぐりつつ、子供たちが檻に閉じ込められている賊のアジトにたどり着く。
しかしそこに待ち構えていたのはその盗賊たちは人造のモンスターを数体従えていた。手下やモンスター1体くらいはなんとか倒すことができたが、それが数体も現れてしまったならばさしものアニスも対しきれない。あわや絶体絶命となったアニスだったが。そこに現れたのが意外な人物だった。宙に浮く椅子に腰を掛ける黒服の男、何とオラクル六神将のディストだった。アニスの危惧が一気に顕れた、かにみえたが。
「我が名は“死神”ディスト。さてどんな死に方がお望みですか」
ディストの言に多少の安堵が芽生えつつあることを感じたアニス。かつての彼なら自ら“死神”とは名乗らず、むしろ“薔薇の”と名乗るはずなのだった。
そんなディストはモンスターたちを引き裂き、山賊たちを黒い気でなぎ倒す〜ともあれ実際命を奪うまでもなく、気を失わせるのみだとアニスをはじめ子供たちも理解していた。
やがて山賊を全滅させ、子供たちも解放された。ディストに近付こうとする子供たちだが。
「サフィール、先生・・・・・」
「あ、ちょっと・・・・・」とアニスも子供たちを止めようとしたのだが。
「待ちなさい、今のわたしには近付いてはいけません。あなた方のサフィール先生はすぐに帰ってきます。それまで家に帰って待っていなさい。あと“漆黒の翼”のみなさん、この子たちのことを頼みますよ」
子供たちもその言葉に従い、いつの間にか駆けつけてきた“漆黒の翼”たちに付き添われこの場を去っていった。
残されたアニスとディスト。かつての“彼”とは違うと確信したアニスは改めてその真意を問う。
「この姿はたしかにディストだけど、やっぱりサフィールで、いいよね」
「言ったはずですよ、今のわたしはディストだと、たしかに子供たちを助けるため、力を振るうには“彼”を借りねばなりませんでした」
「やはり、蘇った記憶を、受け継いでいるんだ」
「たしかに初めは悩みました。ですが“彼”を捨てきれないのなら、受け入れて生きるもよいでしょう。いずれにせよ、むざむざと堕ちませんよ」
と、ディストもこの場を去ろうとする。その後さり気なくサフィールに戻るのだ。その際にアニスに言葉をかける。
「あとそれから、ジェイドには感謝していますよ。それじゃ」
去りゆく彼を見送りつつ、アニスはふと想う。
「ルークと同じように、サフィールもまたディストを受け入れているんだ」
こうして孤児誘拐事件は多少の騒動もあれ無事解決された。そして後の“天と地の邂逅”においても彼の力を借りることもあるだろう。

第2章:辺境の地の少女

引き続き仕事を探そうとマルクト帝都を訪れるも、ピオニー皇帝は不在で彼に成り代わり皇后が対応する。
軍人出身の彼女は、ルークが最近国境地区の開拓に従事していると告げる。代わりにキムラスカより招請の命を受けているのでアニスにも迎えに赴くべしとの達しがあった。
恐らくナタリアから発せられたものだろうと勘繰りながらもひとまず辺境の開拓地へと赴く。
その辺境の地はかつての戦乱で住む家を失った者や職を失った者たち、特にスコアに頼ることが出来なくなり生きる意味を失いかけたものの救済を最優先の目的にキムラスカ、マルクト両国が共同で行われた事業でもある。そこの最高責任者としてルークが自ら志願して赴任されていたのだ。
今日も率先してルークが労働にいそしんでいて、それに倣って多くの作業員が働いている。
やがて休憩時間にさしかかり、部下がアニスの来訪を告げる。

久しぶりにルークと対面し、変わった部分、そして変わらない部分とを感慨とともに確かめるアニスだった。
今のルークはオリジナルのルーク、つまりはアッシュの身体をベースに、いわばルーク、とアッシュの記憶を共有し、まさに生まれ変わった自分を受け入れていたのだ。
「今の俺はルークでもアッシュでもない。俺は、俺さ」とうそぶきつつ、公式にはキムラスカ子爵閣下として大小の公共の仕事に従事していたのだ。
アニスもルークとの会話を楽しんだ後で、本国招請の旨を伝える。

帰還の際にとある隊列にルークは感慨する。それは要人警護の隊列である『インペリアル・セクスタント』だった。
「『インペリアル・トライアングル』か・・・・・」とこぼし、側近の少年も改めて説明しつつルークの感慨に応えるのだった。
あの時の未熟なルークだった自分を懐かしみつつ陣形の真ん中にての歩みを進めるルーク。しかし突然天空からの光に包まれ、ルークは天空に吸い込まれる。すかさずアニスは引き留めようとするも、光の柱にはじかれて成す術がないままルークを見守るしかなかった。

第3章:連れ去られた子爵閣下

ルーク子爵閣下捕わる、凶報はオールドラント全土に伝わる。それを受けてキムラスカ・マルクト両国は対策本部を設立し、天空からの光の正体の分析に躍起になる。
そんな中、永らく隠棲生活を送っていたジェイドが姿を現した。彼はユリアシティにおいて秘められた歴史を調べ恐るべき秘密をもたらそうとした。
そんな折、天空から謎の人影が地上のすべての地に姿をあらわす。人影は地上の人間を“クローン”と呼び、終始高圧的な物言いで地上に対し宣戦を布告する。
続いて確保されたルークが続いて姿を現し、現在の地上の人々が天空の人間に創られた人造人間の子孫であることを告げる。
そもそもこの世界はかつては一度戦争や災害で滅び、人々はその荒廃した世界を捨てて天空の彼方に去っていった。それが彼ら天空人の先祖であった。その際に荒廃した世界を再生するため自分たちに似せた“クローン”を創り出し、その制御のためにユリアシティというコントロール施設を築き“クローン”の復興プログラムである“スコア”を組み込んだ。
そして復興した世界に自分たちが再臨するために役目を終えた“クローン”たちが自然消滅するために組み込んだのが、惑星預言であったのだ。
最後にルークは、自分に構わずみんなが生き残る術を考えてくれと告げ、通信が切れる。それとともにジェイドが、自分が伝えたかったのは、先にルークが告げたこととほぼ同じだと告げる。
ともかくも地上の人類も自ら生き続けるためにこの世界を守らなければならない。まずはルークを助けるべく精鋭部隊が編成された。その中にはもちろんアニスの姿があった。

一方幽閉中のルークのもと、とある人物が訪れた。その人物にルークはある程度の感慨を込めて応える。
「やはりあんたも還ってきたか、ヴァン」

第4章:戻ってきたあの男

ルーク救出のための先遣隊として派遣されることとなったアニス。事態を受け、今や子爵夫人としてバチカルの王宮務めとなったティアが駆け付けてきた。彼女にはルークとの新たな命を宿していたのだ。そんなティアをアニスは気遣おうとするも逆にはげまされたりもする。彼女の強さをかみしめつつアニスは再び旅立っていく。
そして今一人、先にルークの護衛の任をついたあの少年、かつてアクゼリュス出身の彼に、かつての惨劇と併せて複雑な覆いをよぎらせる。
ともかくも先遣隊は新造された宇宙船で天空へと発つ。

一方でルークとヴァンは穏やかに旧交を暖めるかのごとく状況を語り合う。
くり返しながらもそもそも現行人類は天空の民によって作られた“クローン”と呼ばれる人造人間の末裔であって、現行の大地は彼らは“アビス”と呼んでいたのだ。
自分たちが“スコア”に従って大地:アビスをある程度復興し、やがては天空の民のために自滅するはずだった。今までそのプログラム通りに事が運んだはずだったが、クローンのコピーに過ぎなかったルーク、そしてヴァンによって全ての計画が頓挫してしまったのだ。
この事態を重く受け止めた天空の民は混乱に陥り、現行の計画通り地上の人類(クローン)を地上(アビス)もろとも滅ぼし、自分たちの新しい世界を作ろうとするものと、クローンを自らの同志とみなして彼らとともに新たなる世界を築こうとする者とに分かれた。それはスコアに頼れなくなった状況とよく似ていた。
そんな折、一人の女性が現れた。彼女はこの天空界(コロニー)を統治する神官の一人で、数少ない地上人との共存をとなえていた。
そもそもクローンたち、まずオリジナルより創り出された世代はオリジナルの影響を受け、たとえばオリジナルが死んだらクローンもまた消滅するのだ。
しかしその次の世代、クローン同士の交配によって産み出された世代はオリジナルとの関連が薄まり、独自の個体として世代を重ねてきたのだ。ちなみにレプリカの技術もクローン技術に近いものだったのだ。
そのうえで女神官アッシャーは衰退の一途をたどる自分たち天空人が、不完全ながらも独立した一個体となった地上人との融合を望むと告げる。
そこにもう一人の神官アティルト配下の兵が現れ、彼女を拘束せんとするのだ。
さらにはコロニーに到着したアニスたちが護衛と交戦状態に陥っていた。

第5章:天と地の邂逅

コロニーに到着し交戦するアニスたち。しかしその様子はコロニー中枢に察知されていた。神官アティルトに事情を尋ねる一人の高貴そうな少年。心配ないと半ば強引になだめるアティルトに、つまらなさそうにうなづきつつ少年は部屋を後にする。その後で改めて侵入者を排除するよう指示するアティルトだったが。
一方アニスたち地上軍はよくよく敵を退けていた。アニスの実力はともかく、敵を翻弄するディストことサフィール。そして多少ぎこちないながらも着実に敵を斬り払う少年、実は先の事件の後、帝国の元老院議員の席を授けられつつ隠遁生活を送るガイに業を教えられたのだ。
そんな面々がルーク救出のために突き進んでいくのだ。
一方でルークたち、半ば監禁されている彼らの元、何とあの少年が訪れた。気高くも幼い口調の彼に「まるで昔の俺だな」と感慨を述べると少年は「そなたは魂を二つも持っているのか」と返して問う。
「あの時から俺の体は俺自身のものじゃないからな」その言葉の意味を知ってか知らずか、その少年、天界の皇子ブリアーも一応の同意をする。
ブリアーはふと話題を変え、神官アッシャーの居所を監視の兵士に問う。兵士が答えに窮しかけた時、進入したアニス一行が部屋に飛び込んできたのだ。
「大丈夫、ルーク」とアニスの問いに「俺は大丈夫」と返すルーク。
続いて少年も「大丈夫ですか、閣下」との問いかけに、「ああ、大丈夫だ、お前に討たれるまでは、俺は死なない」と返す。
「いえ、閣下は一度お隠れになり、そして再びお生まれになりました。そんな閣下を、僕も守っていきたいのです」と少年は先の因縁をほのめかすルークを流しつつ応えるのだった。
そこに傍らで座すのみだったヴァンが、おもむろに立ち上がり一つの提案を持ち掛ける。
「さて、役者はそろったところで、みな多少は思うところがあろうが、ここは切り抜けるとするか」
「その前にアッシャーはどうした」とブリアーが監視兵に改めて問う。兵は怯えながらもアティルト配下の兵に捕らえられたと告げる。実はアッシャーはアティルト配下の兵によって別室に軟禁された。ちなみにルークとヴァンも現在軟禁状態でもある。
そこに遅れてアニスはヴァンに問う。
「で、何であんたまでいるのヴァン!?
「俺と同じ理屈さ。もっともヴァンの場合は自分の野望に対する保険だけどな」
と、ルークが代わって応える。
「そして今、諸君らとともに戦うことができるというわけだ、信じられぬとあればそれでもかまわないが」
ともかく今はヴァンの言に従い、ここを脱出するのみだが。
「ここは予も同行いたそう、できればアッシャーを連れていきたいが致し方なかろう」
と皇子もアニスたちと共にすることになった。その際動揺する兵士を一瞥すると、その兵士は静かに倒れていった。
「これも眼力の一つだ、これでも抑えて使ったがそなたたちに対しては耐性もあろうが、それを使わぬことがそなたたちに対する信頼と受け止めて頂こうか」
皇子の恐るべき力に畏れを抱きつつもひとまず彼の案内で脱出行への裏口に向かう一行。こうして転送された先はアビス辺境のユリアシティであった。

第6章:偽りの理想郷

ユリアシティにたどり着いた一同は、待ち構えたジェイドに“クローン”による自身が調べ上げた地上の再生計画とその根幹の宇宙保存計画について告げられる。
かつて天空の世界と地上(アビス)が一つとなっていたはるかいにしえの時代、この世の全ての物質を司る分子とそれを発する波長の体現たるフォニムを発見し、そこからあらゆるエネルギーを引き出して自分たちの文明を発展させた。しかしそれに頼りすぎた世界はやがてこの世全ての崩壊の予言を知り、その手始めとして自分たちの世界の崩壊に直面するに至る。それが天空と地上を分け、今に至る計画へと流れたわけだった。
ともかくも今回の騒乱を受けて天空界を抑えるだけでなく、きたる宇宙そのものの崩壊をも防がなければならない。そこにブリアーが口を開く。
「この都市、そなたたちが呼ぶユリアシティには宇宙を制する“オリジナル・フォニム”を増幅・発生させる装置が備わっており、それをうまく駆使すればこの世界、宇宙の崩壊を防ぐことができる」
その言葉に沸き立ち一同だが、続けてはなった言葉にその歓びもかき消される。
「ただしそれを使用するためにはそれにふさわしい生体要素を持つ者が使用しなければならない。そして宇宙そのものをその身に委ねるのだ。すなわちその者の命をもまさに捧げなければならない」
さらにブリアーの言葉は続く。
「幸い先の戦いを踏まえて、それにふさわしき生体要素を持つものが判明した。それは、アニス=タトリン、そなただ」
その言葉に驚く一同。
「でも、どう使えばいいの」と一堂に対して軽く返すアニスに対し、
「それに身を預け、祈りと歌を捧げればよい」と返すブリアー。歌声と聞いてかつて教えられた教団の讃美歌をためしに口ずさむが、やはり音程が外れた蛮声ともいえるものだった。
「これじゃあティアの足元にも及ばないぞ」と文句を言うルークに、
「ただ喉で歌えばいいというものではない。予が力を貸すから“刻”がくるまで練習をするがいい」とブリアーがアニスを伴い場を外す。大丈夫かと表面上不安を訴えるルーク、同じ思いをジェイドとヴァンを除く一同が抱くが、ここは彼ら二人に任せるべきとジェイドがこの場を取り繕う。

その時だった、キムラスカ、マルクト両国から天空から不穏な動きがもたらされるとの知らせが届く。彼らが本格的に軍勢を差し向け、アビス制圧のために乗り出したとヴァンが告げる。こうして一触即発の事態も差し迫ってきた。

一方で天空城では、周辺空域の異常を告げられつつ、中枢の神官アティルトが封じられたアッシャーの思念に問われる。あくまで天空人の支配にこだわるのかと問う彼女に、それが天空の意志と応えるアティルト。その上で本来の目的地たるユリアシティのオリジナル・フォニム増幅装置を手に入れれば万事うまくいくとも断ずる。
「すべてはわたしの、そう、天空人、きたるべき理想郷ノイエラントの到来のために、古き人、クローンは存在してはならぬのだ」
こうしてアティルトの鬱屈した笑いが天空城にこだまする。

終章:永遠の歌声

かつて王国と帝国が相争った平原にて、両国の連合軍と舞い降りてきた天界軍と対峙していた。しかしいざ激突すれば双方に甚大な被害が出ることは必定なだけに、連合軍を指揮していたガイとナタリアが、対する天界軍もそれぞれの司令官にアッシャーの思念が、現状維持でそのまま待機を命じ、にらみ合いを交えた一種の均衡状態に突入していた。
天界コロニーにては、再び乗り込んだルークたちがアティルトの兵たちをよくよく退けていく。たしかにアティルトを攻略していけばこの無意味にも見える争いを鎮めることもできるかもしれない。ましてオリジナル・フォニムを発動させるカギとなるアニスの覚醒のために時間を稼がなければならない。
いずれにしてもアティルトの野望をここで阻止しなければならない。

また一方、キムラスカ城にては今まさにティアに子供が産まれんとしていた。天空は不穏な雲が渦を巻き、街じゅういたるところに突風や雷鳴が鳴り響き、まさに天変地異の中心となりつつある。
「大丈夫、今お父様はこの地上の本当の平和のために戦っているの。あなたたちが安心して暮らせる世界のために。それに私も、あなたたちが無事に生まれるために頑張るから・・・・・」
薄れゆく意識の中でティアは生まれてくる子供に励ましつつ声を振り絞るのだった。

コロニー中枢ではアティルト兵の大群と対峙していたルークたち、先にいくつかの路が開け、その先にアティルトがいるのだ。そこで目の前の雑魚は自分たちに任せろとディストと少年がしんがりを務め先へ向かわんとするルーク、ジェイド、ヴァン。
「そこ先に何があるかは分からないが、その先に神官たちがいる。何としても彼らを止めなければならない」とルークが、
「そして世界、ひいては宇宙の崩壊を止めるため神官たちの暴走をも止めなければなりません」とジェイドが、
そして「この中で誰かが欠けることは許されない。全員が生き延びて使命を果たすことが大切だ」とヴァンが告げ、中枢への路へと進んでいく。
一方のアティルトも、先だって地上に蒔いた“種”に瘴気を呼応させ、獣たちを覚醒するように指示し、部下たちが派遣した兵士のことを示唆するもかまわぬと返し、回廊にも強力な獣を差し向けるよう重ねて指示し、そのおそるべき作戦は実行に移された。
まず地上の戦場では敵味方を問わず地の底から獣たちが沸き上がり襲い掛かる。混乱する天界軍、対して地上の連合軍もガイたちの指揮でよくよく対応していく。続いて混乱が続く天界軍を援護するよう、王国と帝国のそれぞれ直属部隊を指揮し、ナタリアとガイがかつての敵陣へと飛び込んでいく。獣たちに苦戦する天界軍の兵士たち。しかしその獣をナタリアが、そしてガイが介入して獣たちを退ける。結果的に敵の侵攻を許してしまった天界軍だが、もはや彼らの戦意はそがれてしまったのだ。
戻って天界、回廊に出現した強力な獣、ジェイド、ヴァンは手こずりつつも徐々に退けていく。しかしルークの路には敵の陣容が厚すぎるのかホール以上の敵が一斉に襲い掛かる。
それでもルークは果敢に応戦して敵を退けていく。しかし多勢に無勢か次第に押し返されていく。
「さしもの俺も焼きが回ったか、いや、こんな所で俺は死なない。あの時、アッシュと誓ったんだ。どんなことがあっても生き抜くのだと・・・・・」
その言葉に反応してか、ルークの脳裏に何やらの言葉が響き、その体内から力が沸き上がるのを感じた。それは地上で産まれんとしていたティアとの子供たちの声だった。
「そうだ、お前たちのために俺は死ねないんだ。俺は必ず帰ってくる。ティアのために。そしてお前たちのために」
はたしてルークの内なる力が再び覚醒し、強大な敵を次々と打ち倒していく。それはジェイドとヴァンにも呼応し、それぞれ潜在的な力を引き出していくのだった。

そしてユリアシティでも、アニスもまた修行の最終段階へと差し掛かる際に、子供たちの声を聞き、その渦の中心へと吸い込まれていく。
ブリアーも制止しようとするも、彼もまた子供たちの声を聞き、ひとまずは納得する。
そのアニスは渦の中心にかかり一旦はその身を分解させるも、再び肉体を再構成し、その肉体とともに魂の歌を会得、自らが奏でる歌を渦から装置を通じて世界中に発するのだった。
その世界中に響いた歌は、まず戦場の獣たちを瘴気から解放し、あるものは大地に帰し、あるものは元の大人しい動物へと戻していく。
そしてコロニーにても大半の獣たちが種や元の動物へと姿を戻す。残るはアティルトが調整した器械の獣たちがルークたちに立ち向かうのだ。

そしてキムラスカ城では、ティアが無事双子の赤ん坊を出産し、それに呼応するかのごとく上空の暗雲も晴れていった。
出産を終え、母子ともども寝入った中、ティアの心の声がアニスに伝えられる。
「子供たちは無事産まれたわ。私も、あなたとともに戦います」
「でも大丈夫なの、子供を産んだばかりなのに」
「ええ、私の意思が、装置からあなたを通じて力を与えてくれるから」
こうしてブリアーとともに、アニスも装置から出て、あらためて事情を聴いてから転送装置にてコロニーへと向かう。
ひと通りの敵を退けたディストたちのもと、アニスが現れ、激闘の末ほとんどの回廊が閉ざされている中、唯一ひらけた回廊に向かう。一方ブリアーはコロニーの民を安堵させるために居住区へと向かう、その際にディストたちに護衛を要請し、承諾の末同行することとなった。
回廊の先、合流したルークたちのもと、アニスもまた合流し、先の器械の獣たちが立ちはだかり、苦戦の末それらを倒すことができたのだ。
誰もがアニスの変貌に驚きを禁じ得ない中、代表でルークが問うも、自分は何も変わらない。ただ宇宙(そら)の意思、ゆらぎと言っていいか、ともかくそれを聞いてその意思に基づいていくだけと返す。それぞれがそれぞれの理解を示し、残るはアティルトらがいる中枢であった。
その中枢にたどり着いたアニスたち。目前に立ちはだかるアティルトが声を発する。
「よく来たなアビスのものどもよ、しかし汝らがいくらあがこうが、アビスの滅び、ひいては世界の新生は止まらぬ」
「それは、違うよ」とアニスが返す。続けて自らが見聞きした言葉を伝える。
ユリアシティからティアを通じて、ユリアの声を聞いたの。この宇宙は揺らぎによって創られて、それを制御する方法がフォニムだったの。
それの暴走でこの世界が崩壊しかけ、それを防ぐために天空と地上を分けたの。いずれ来る世界の再生のために。
地上が再生し、あとは天空界の降臨を待つだけだけど、そのために地上の人々を滅ぼすのはユリアの、そして天空の意思ではない、と。
しかしアティルトはその言葉を嘘だと拒絶する。それでは何のために我らが天空の民を導いたのかという自らの否定ともなりえるからだと。それは違うというアッシャーの説得にも結局耳を貸さずに、中枢の機械に隠された強大なる器械の獣を呼び起こし、自らが搭乗、捜査してアニスたちに襲い掛かる。
そして激闘の末、器械の獣を撃破、しかしそこから抜け出たアティルトも己のもてるフォニムの理力で襲い掛かる。しかしアニスのオリジナル・フォニムを中心とした、ルークたち力あるものの激闘によって退けられる。
フォニムを使い果たしてか、アティルトも肉体を消滅させる。そしてそれは自らが制御したフォニムの増幅装置の暴走を許し、このコロニーを、ひいては世界すなわち宇宙をも崩壊させると告げ、コロニー中が振動する中何とか破滅を止められないかと誰もが危惧するのだったが、やはり頼りはアニスのオリジナル・フォニムだった。しかしいかにアニスであってもフォニムの過剰な使用は肉体の消滅を招く。
しかし世界の破滅を防ぐならとちゅうちょなく地上の装置を通じてオリジナル・フォニムすなわち原初のゆらぎを発し、コロニーの制御装置の暴走を中和し、ひいては宇宙の崩壊をも防いだのだ。
しかしアニスの肉体は消滅をはじめ、それは地上のティアですらどうにもならないという。しかしその崩壊を防いだのは、やはりルークとティアの子供たちの産声だったのだ。
それは他愛もない声だったが、その響きが装置と同調しアニスの消滅を防ぎ、現世にとどまらせたのだ。
再びアニスが気が付いたのはルークの腕の中だった。
「こうしてルークにお姫様だっこされるのが夢だったけど、もうルークにはティアがいるんだよね」
「ああ、だけどお前にはあの王子さまがいるじゃないか」とルークが応える
「そして世界は新しく生まれ変わります」とジェイドが、
「我らの戦いもこれからだということだ」ヴァンがそれぞれアニスの戦いを労う。
そしてルークが「さあ、帰ろう、俺たちの世界、そして新しい世界に」と告げ、みんなが地上に還るのだった。

エピローグ

あれから数か月後
キムラスカ城ではルークが久しぶりに休暇を得て、ティアと双子の子供たちと楽しいひと時を過ごしていた。
そんなルークも今までの忠勤が認められ爵位を伯爵に進め、いずれは父ファブレを継いで公爵の爵位を得て、ともすれば王位をも継ぐともいわれている。
しかしどんな地位につこうとも、二人の子供たちのために恥じぬ男であろうとあらためて誓うルークだった。
ユリアシティでは隠棲の中知識の研鑽に打ち込むジェイドにヴァンが加わり、世界の真理を探究するべく、それでいて人々の生活をより良くするためにも腐心していた。
当然二人もあの冒険と探求の日々を懐かしく思いつつ、今の生活にひとまずの満足を覚えていた。
そしてナタリア、ガイたちもそれぞれの地位、立場から平和になった地上の発展に力を尽くし、平和が戻った天空も正式に皇王の位についたブリアーが神官アッシャーのサポートのもと、天空の民たちを導いていた。

そしてアニスは、覚醒した力を封印し、新たな生活を始める地上の民と、地上に移住を希望する天空の民を中心に、何でも屋の活動を再開する。
「これからどんなことが起こるかもしれないけれど、本当の意味で人が生きるためにまずあたしたちががんばらなきゃ」
こうしていつもの調子を取り戻し、新たなる冒険を求めるかのごとく、新たなる世界へと旅立つアニスであった。